Dec 09, 2022 column

監督アレックス・ガーランドが放つ"クセがツヨい"フォーク・ホラー『MEN 同じ顔の男たち』

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『ムーンライト』(16)や『ミッドサマー』(19)など、エッジーな作品を数多く世に放ち、映画界を席巻し続けている制作・配給会社「A24」。設立10周年を迎えた2022年も、その快進撃は止まらない。

ホアキン・フェニックスとマイク・ミルズがタッグを組んだハートウォーミング・ドラマ『カモン カモン』、ヴィンテージなエクストリーム・ホラー『X エックス』、アイスランド発のネイチャー・スリラー『LAMB/ラム』、小津安二郎のような筆致で”記憶”というSF的主題を深掘りする『アフター・ヤン』、アーサー王伝説外伝を奇妙なダークファンタジーに仕立てた『グリーン・ナイト』‥‥。特に今年後半にかけて、注目作・話題作が立て続けに公開されている。そして今年最後に公開されるのが『MEN 同じ顔の男たち』(22)だ。

本作はA24のラインナップの中でも一際異彩を放つ作品だ。夫が転落死したトラウマから逃れようと、イギリスの片田舎を訪れたハーパー。この田舎町には女性の影はなく、出会うのは同じ顔をした男性ばかり。やがて彼女の周りで、少しずつ不穏な出来事が起こり始める‥‥。


監督を務めるのは、『エクス・マキナ』(15)で先鋭的なビジュアル・センスを見せつけた鬼才アレックス・ガーランド。主演は、『ロスト・ドーター』(21)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた実力派ジェシー・バックリー。そしてロリー・キニアが、1人で何役もの“同じ顔の男たち”を怪演する。


かくして完成したのは、あの伝説的カルト映画『ウィッカーマン』(73)のような佇まいの、新感覚フォーク・ホラーだ。

グリーンマンから着想を得たフォーク・ホラー

本作で監督を務めたアレックス・ガーランドのキャリアは非常に風変わりだ。彼がその名を世界に知らしめたのは、『ザ・ビーチ』と銘打たれた一冊の小説である。

バックパッカーの青年が伝説の楽園“ビーチ”を探し求める物語は、現代のユートピアを探し求める若い世代の心性とジャストマッチし、大ベストセラーに。小説家のニック・ホーンビーは「ジェネレーションXの『蠅の王』である」と評し、フランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、ジャック・ケルアックの『路上』と並ぶような、若者たちのマニフェストとなったのである。

20代にして人気小説家となったアレックス・ガーランドだが、彼は成功を約束された場所に居座り続けるような現状維持タイプではなかった。彼は脚本家に転向し、『ザ・ビーチ』を監督したダニー・ボイルとタッグを組んで、『28日後…』(02)、『サンシャイン 2057』(07)のシナリオを執筆。その後も『わたしを離さないで』(10)、『ジャッジ・ドレッド』(12)と、SF・ホラーを中心に話題作を作り続けてきたのである。

満を持して監督デビューを果たした『エクス・マキナ』が、アカデミー賞視覚効果賞を受賞。米タイム誌の「2015年の映画トップ10」に選出されるなど絶賛を浴び、一躍次代を担うフィルムメーカーとなる。『MEN 同じ顔の男たち』は彼にとって3本目となる監督作だが、ドラフト自体は15年ほど前に書かれていた。きっかけとなったのは、中世ヨーロッパの絵画や建造物に登場する、“グリーンマン”と呼ばれるモチーフ。顔や体が葉で覆われたこの人頭像は、一般的には木や森に対するアニミズムの名残と考えられている。だがその図像学的解釈については、研究者の間でも統一的見解が導き出されていない。現在に至るまで、謎に満ちた存在なのである。

「(グリーンマンは)ヴィクトリア朝の建築物から中世の教会まで、あらゆるものに登場しています。キリスト教以前のもので、図像を説明する文字が存在しなかったためか、その由来や意味するところは誰も知りません。この緑の男たちは、しばしば温和な性格とされてきましたが、少なくとも私の目には、痛みや怒り、叫びをあげているように見えたのです」ーアレックス・ガーランド (出典:screendaily.com)

この映画でグリーンマンは、教会の祭壇に祀られた彫像として登場する。アレックス・ガーランドは彼らを主役に据えるのではなく、主人公ーー強烈なトラウマを抱えた女性に影響を与える存在として配置したのである。