2020年代の新しい恐怖
物語後半、ミーガンの脅威が畳み掛けるようにやってくる。彼女はとっくに人間を超えていたのだ。
常時オンライン接続しているミーガンは、指紋認証も、音声認識も易々と解除でき、乗用車もハンドルを握らずとも動かせる。大人ひとり片手でぶん投げる腕力にハッキング能力。IoT化が進んだ我々の生活に関わるすべてのことがミーガンにのっとられるという恐怖を味わうことになる。
SF作家アイザック・アシモフが著作「I,ROBOT」で示したロボットが絶対に従わなくてはならない”ロボット工学三原則”。
1、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを黙視してはならない。
2、ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一原則に反する命令はその限りではない。
3、ロボットは自らの存在を護らなくてはならない。ただしそれは第一、第二原則に違反しない場合に限る。
これをまったくもって無視し自らの存在を誇示するために人間を蹂躙する。近年騒がれているChatGPTの危険性とはこういう状況のことだ。
近い将来、AIコンピューターのスカイネットが自我に目覚め、人類と機械の間で核戦争を起こす、なんてのんびりした話ではない。いまの話なのだ。『ターミネーター』が公開された1984年から40年近く経った今、コンピューターからAIとなり、我々の生活に身近なものになった。デジタルネイティブの世代は幼児期からiPadを自分で操作して動画を見ていただろう。子供の相手をiPhoneに任せた親世代もいるだろう。核家族化、両親の共働きが進むなかテクノロジーの手助けは必要不可欠だ。技術を否定するわけではない、依存しすぎに注意せよ、ということだ。散々言われてきたことだけれど、今だからこそ、その危険性が実感として恐怖となる。殺人鬼が襲ってくる!といった旧来型の怖さはもちろんあるけれど、『M3GAN/ミーガン』は、みずからの内なる恐怖を呼び起こす。
最後に「完全な人工知能の開発は、人類の終焉を意味するかもしれない」と言った天才物理学者スティーヴン・ホーキング博士が、生前「WIRED」UK版に遺したメッセージを引用する。
「われわれはランプの魔神ジーニーを解き放ってしまいました。もはや後戻りはできません。AIの開発は進めてゆく必要がありますが、危険とまさに隣り合わせであることを心にとめておかなくてはなりません。わたしは、AIが完全に人間の代わりになるのではないかと恐れています。コンピューターウイルスを設計すれば、そのウイルスを複製するAIをつくる人も出てくるでしょう。これは、人間よりも優れた新たな生活の枠組みになると思います」
文 / 小倉靖史
交通事故で両親を亡くし、悲しみからふさぎこんでしまった 9 歳の少女ケイディ。おもちゃメーカーの才気あふれる研究者ジェマは、この姪を引き取ることになるが、仕事ひと筋の独身者にとって育児はハードルが高い。そこで彼女は研究段階のAI搭載の人形M3GAN(ミーガン)を、実験を兼ねてケイディにあたえる。ケイディは“彼女”との交流によって笑顔を取り戻していった。ケイディが親しめば親しむほど、彼女によかれと思えることを次々と実行していくミーガン。しかし彼女の中に芽生えたケイディへの愛情は、やがて狂気へと変わり、とてつもない惨劇を引き起こす‥‥。
監督:ジェラルド・ジョンストン
出演:アリソン・ウィリアムズ、ヴァイオレット・マッグロウ、ロニー・チェン 他
配給:東宝東和
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公開中
公式サイト m3gan.jp