岡田准一、妻夫木聡、黒木華、小松菜奈、松たか子ら豪華キャストが集結したことで話題の映画『来る』が12月7日より公開された。『嫌われ松子の一生』(06年)や『告白』(10年)などのヒット作で知られる中島哲也監督が、初めてホラー映画に挑戦したことでも注目を集めている。類い稀なる映像センスの持ち主・中島監督が、実力派俳優たちを擁して描き出した現代社会の恐怖とは何だろうか?
中島哲也監督が38.5億円の大ヒットとなった『告白』以来、8年ぶりに東宝で『来る』を撮り上げた。原作は2015年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した澤村伊智の作家デビュー作『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫)。日本古来から伝わる民間伝承や都市伝説に加え、章ごとに語り手が変わることで意外な真相が見えてくるサイコミステリー的な要素をはらみ、選考委員をつとめた宮部みゆきらが絶賛した傑作小説だ。 イクメンサラリーマンの田原(妻夫木聡)、貞淑な妻・香奈(黒木華)、幼いひとり娘の知紗(志田愛珠)の3人が暮らす新しい分譲マンションが舞台。子煩悩な田原は、知紗の成長ぶりを毎日ブログにアップすることで忙しい。とても幸せそうな田原家だったが、田原と仲のよい職場の後輩・高梨(太賀)が血を流して突然倒れるという怪奇現象が発生。高梨には乱ぐい歯で噛まれた大きな傷跡があった。さらには田原が集めていた有名神社のお守りやお札が、何者かによって次々と切り裂かれてしまう。恐怖におののく田原は、民俗学者である友人・津田(青木崇高)を介して、オカルトライターの野崎(岡田准一)と霊能力を持つキャバ嬢・真琴(小松菜奈)に助けを求める。 田原家を訪れた真琴によれば、田原家を狙う化け物はとてつもない力を持っており、幼い知紗が危ないという。真琴では化け物に太刀打ちできず、日本最強の霊媒師である姉・琴子(松たか子)が浄霊に乗り出すことになる。物語が進むにつれ、化け物を呼び寄せてしまった田原、妻・香奈の秘密が明かされていく。また事件に関わってしまった野崎も、自身のトラウマと向き合うことになる。中島監督とモンスターとの関係性
CMディレクター出身、『下妻物語』(04年)や『パコと魔法の絵本』(08年)などスタイリッシュな映像作品を生み出してきた中島監督が、初めてホラー映画に挑んだことに意外性を感じる人もいるかもしれない。だが、振り返ってみると中島監督は、これまでも“モンスター”を映画の中で度々描いてきた。『来る』と同様に語り手が変わる『告白』では、幼い娘を殺された中学教師(松たか子)がモンスターチルドレンに復讐を遂げるモンスター教師へと変身を遂げた。中島監督が東宝を離れて撮った『渇き。』(14年)では、失踪した娘(小松菜奈)を探す元刑事である父親(役所広司)は娘の隠された裏の顔を知り、彼もまた人間ならざるモンスターペアレントへと変貌していく。 完成には至らなかったが、中島監督は『告白』の次回作として、人気コミック『進撃の巨人』の実写化にも取り組んでいた。『進撃の巨人』は巨大な人間が人間を捕食するというSFサスペンスだ。中島監督は、人間の姿をしたモンスターを繰り返し描いている。モンスターそのものを主題にした『来る』は、それらの作品と地下水脈で繋がっていると言っていいだろう。 19世紀のドイツの哲学者ニーチェは、「怪物とたたかう者は、みずからも怪物とならぬようにこころせよ」と著書『善悪の彼岸』の中で述べている。ひとりの人間の中には、誰しもモンスター的因子が潜んでいる。そのことを中島監督は過去の作品の中で描いてきた。『嫌われ松子の一生』のヒロイン(中谷美紀)がそうだったように、人間は愛されることで天使にもなれば、地獄の住人にもなりうる。中島監督の厳しい演出のもとで女優としての評価を高めた松たか子&小松菜奈演じる霊能力姉妹の活躍と共に、『来る』の化け物を招いたのは誰なのか、また恐ろしい化け物はどのようにして生まれたのかにも刮目してほしい。