Apr 07, 2023 column

『ノック 終末の訪問者』世界の終末が扉を叩いてやってくる シャマランによる"黙示録"的密室劇

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黙示録の四騎士

シャマラン映画には、極端すぎるキャラクターがやたら登場する。『アンブレイカブル』(2000)のデヴィッド(ブルース・ウィリス)は、列車事故に巻き込まれても傷一つ負わない不死身の男で、彼をヒーローとして見出すイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)は、ちょっとしたことですぐに骨折してしまう骨形成不全症を患っている。『スプリット』(2017)の主人公ケビン(ジェームズ・マカヴォイ)は、24もの人格を有する多重人格者。『ヴィジット』では、サイコすぎるおばあちゃんが床下を超高速で這い回っていた。

エクストリームな登場人物をエクストリームな設定に当てはめることで、シャマラン映画は生き生きと躍動する。2m近い大男でありながら、誰よりも思慮深く優しい心を持つ小学校教師レナードは、外見と内面のギャップも含めて、いかにもシャマラン的なキャラクターといえる。だが実際に撮影するとなると、キャスティングは極めて困難。「繊細な芝居ができる巨人なんて、どこにいるんだ?」とM・ナイト・シャマランは頭を抱えたという。

そんな時に天啓のように閃いたのが、『ブレードランナー 2049』で逃亡レプリカント役を演じていたデイヴ・バウティスタ。WWEの殿堂入りを果たしたこのレジェンド・プロレスラーは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、『007 スペクター』など数々の映画に出演していた。彼の存在が、作品に豊かな奥行きを与えたことは間違いないだろう。

「私はプロレスについてあまり知らなかったので、頭の中に彼がいた訳ではないんだ。(中略)でも、あの人はすごいと思っていたんだよ。しかも巨漢だったしね。デイヴ・バウティスタという名前であることを知って、連絡をとったんだ。(中略)彼が、“できるかどうかわからない”と言うので、私は“できるよ。あなたなら、きっとできる”と伝えたんだ。その点において一秒たりとも揺らいだことはないよ」

(M・ナイト・シャマランのインタビューより抜粋)

デイヴ・バウティスタによって生身の肉体を得たレナードは、人類を救済するために家族の1人を犠牲として差し出せと要求する、極めて複雑なキャラクターだ。彼が見たという不思議なヴィジョンによれば、「街が水に沈み、疫病が蔓延し、空が落ちてきて、髪の指が大地を焼き払い、永遠の闇が人生を覆う」のだという。おそらくレナードたちは、現代の黙示録の四騎士(ザ・フォー・ホースメン)なのだろう。

黙示録の四騎士とは、新約聖書の「ヨハネの黙示録」に登場する“神の使い”だ。白い馬に乗った第一の騎士は、勝利を得る役目を担う者。赤い馬に乗った第二の騎士は、地上の人間に戦争を起こさせる者。黒い馬に乗った第三の騎士は、地上に飢饉をもたらす者。そして青白い馬に乗った第四の騎士は、地上の人間を死に至らしめる者。この四騎士は地上にある7つの封印のうち4つが解かれときに現れるという。

四騎士が乗る馬の色に呼応するように、レナードは白いシャツ、レドモンドは赤いシャツ、エイドリアンは青いシャツ(濃い青のため、暗がりにいると黒に見える)、サブリナは淡い黄色のブラウスを着ている。そして四騎士が解き放たれた順番通りに彼らもキャビンに現れ、世界の終焉を語りかけるのだ。

「ヨハネの黙示録」をあからさまに参照することで、本作は文字通り終末論としての強度を勝ち得ている。しかも、まるで舞台劇のように、キャビンにカメラを固定させるだけの手法で。ミニマムな手法で語られるマキシマムな物語。自ら脚本をリライトし、より自分のフィールドへと引き寄せることで、『ノック 終末の訪問者』はオリジナル以上にシャマラン色が強い作品に仕上がっている。

文 / 竹島ルイ

作品情報
映画『ノック 終末の訪問者』

鬱蒼と生い茂る森の中で1人佇む少女が、表情が見えない無骨な謎の男から「僕はレナード よろしくね」と手を差し伸べられる。娘が出会った男に不信感を抱き山小屋に立てこもる3人の家族だったが、ここへ仕事へ来たという凶器を持った謎の訪問者に囚われる。3人の家族に1人の男が「我々の使命は“終末”を止めること。君たち家族の“選択”に懸かってる」と告げる。「しくじれば‥‥世界は滅びる」と。休日を楽しむ家族を襲った4人の訪問者の“任務”とは。なぜ世界は終末を迎えることになるのか?正気とは思えない究極の“選択”を迫る、驚愕の真実とは何か?

監督:M.ナイト・シャマラン

出演:デイヴ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリント ほか

配給:東宝東和

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公式サイト knock-movie.jp