Sep 14, 2019 column

『記憶にございません!』にみる、三谷幸喜の独自のスタイル

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1961年生まれの三谷幸喜監督が、同年生まれの中井貴一を主演に起用した政界コメディ『記憶にございません!』が公開された。共演は三谷作品には初参加となるディーン・フジオカ、石田ゆり子らに加え、三谷作品でおなじみの草刈正雄、佐藤浩市、斉藤由貴、吉田羊ら演技達者な顔ぶれが集結している。監督作は本作ですでに8本目。日本映画界には他にはない、独自のポジションを築いた三谷監督作のスタイルを考察しよう。

70年代のパワーワードがタイトルに

「そんなの君のキャラじゃないよ」と周囲に言われ、思わず言葉を呑み込んでしまったことはないだろうか。長年、組織や集団の中で生活していると、その中での役割分担が進み、その人なりのキャラクターやポジションがつくられていく。努力して手に入れた立場であっても、自分の本音が口にできなくなってしまうこともある。三谷幸喜監督の最新映画『記憶にございません!』は、人生の収穫期を迎えた主人公が本当に自分のやりたかったことを思い出し、周囲を巻き込んで奮闘するコメディとなっている。

監督デビュー作『ラヂオの時間』(97年)は生放送中のラジオ局、大ヒット作『THE 有頂天ホテル』(06年)は大晦日の一流ホテル、司法サスペンス『ステキな金縛り』(11年)は法廷が舞台…と毎回のように物語設定が注目を集める三谷作品。シチュエーションへのこだわりは、いかにも舞台出身の脚本家&演出家らしい。今回は総理官邸と公邸をメイン舞台にした政界コメディである。

田村正和主演ドラマ『総理と呼ばないで』(97年)や明治時代の元老たちが大津事件にどう対処するかで四苦八苦する舞台『その場しのぎの男たち』(92年上演)などの脚本も手掛けており、三谷監督にとって政界コメディはお気に入りのジャンルのひとつ。NHK大河ドラマ『真田丸』(16年)も、真田信繁(堺雅人)、徳川家康(内野聖陽)らが腹を探り合う政治ドラマとしての面白さがあった。

「記憶にございません」は1976年に起きた「ロッキード事件」の証人喚問で使われ、一躍その年の流行語となった言葉。三谷監督が思春期のころに流行した政界のパワーワードをタイトルにした本作は、こんなストーリーだ。黒田啓介(中井貴一)は病院のベッドで目が覚めた。自分が何者で、なぜ病院にいるのかわからなかったが、テレビのニュースを見て、自分は史上最低の支持率となっている嫌われ者の総理大臣であり、演説中に投石に当たって、病院に運ばれてきたことを知る。どうやら石が頭に当たり、そのショックで記憶喪失になってしまったらしい。

病院から抜け出す黒田だったが、秘書官の井坂(ディーン・フジオカ)らに見つかり、総理官邸へと連れ戻される。総理夫人である聡子(石田ゆり子)、ひとり息子の篤彦(濱田龍臣)との関係も最悪…と驚くことばかり。黒田は政治家として国民から嫌われているだけでなく、夫としても父親としても家族から見放されているダメダメ人間だった。そんな中、政治的混乱を防ぐために、井坂や事務秘書官・番場(小池栄子)は黒田が記憶喪失であることを隠そうとし、予想外なハプニングが起きていく。

検討中の政策や政界の人間関係もすべて記憶から消えており、パニック状態となる黒田。井坂や番場たちの機転で何とか切り抜けるものの、逆に記憶を失ったことが黒田にとっては人生をやり直すチャンスとなる。国民や家族に嫌われながら権力を手に入れた黒田だが、根っからの悪人ではない。政治家としての初心に返った黒田は、それまでの政界の悪しき習慣を見直し、庶民目線での善政を考えるようになる。しかし、それは黒田を操り人形として扱ってきた政界の裏ボス・鶴丸(草刈正雄)と対決することを意味していた。

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