Aug 07, 2025 column

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』 かつての夏休み映画が持っていたスピリット、映画、映画館を再生 (Rebirth) 、再駆動させるために

A A
SHARE

ゾーラという新時代のヒロイン

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、サン・ユペール島の研究室というSF的な無菌空間から始まる。扉の向こうにいる仲間を助けられないという、『GODZILLA ゴジラ』(2014) で強烈な印象を与えたシーンが、本作においても繰り返される。ギャレス・エドワーズの作家の刻印が早速刻まれる。新しいシリーズの始まりを告げるホラー映画的な展開に背筋が凍ると同時にワクワクする。ギャレス・エドワーズはトラウマになるようなホラーではなく、遊園地のアトラクションを楽しむようなホラーを志したという。“白亜紀後期のジョーズ”と喩えられるモササウルスのスペシャルなシーンをはじめ、この作品にはアトラクションの要素が満載だ(モササウルスのシーンだけでもこの作品は見る価値があると断言する!)。そしてアトラクションとしての映画こそ、かつて子供から大人までを夢中にさせた夏休み映画が持っていたスピリットに他ならないだろう。

そしてスカーレット・ヨハンソンが演じるゾーラという新時代のヒロインが、クールに“以後”の世界をサヴァイヴする(脚本の仮タイトルは『サヴァイヴ』だったという)。ゾーラというキャラクターが新しいのは、恋愛要素がまるで皆無であることだ。すべての登場人物はゾーラを恋愛対象として見ていない。というよりも、ゾーラのクールでタフネスなカリスマ的オーラが安易に恋愛感情を抱かせないと言ったほうが正しい。ゾーラに恋をするとしたらそれは観客だけだ。ゾーラはチームの最強メンバーとして奔走する。さすがブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフを演じたことのあるスカーレット・ヨハンソンである。ゾーラのイメージにもっとも近いのは、『エイリアン』シリーズでリプリーを演じたシガニー・ウィーバーだろう。『エイリアン4』(1997) の際、ウィノナ・ライダーが語っていたように、リプリーというキャラクターは、初めての圧倒的な女性のアクション・ヒーローだった。本作が『エイリアン』のようなSF的な無菌空間から始まるのは、ゾーラというリプリー的なヒロインを登場させることへの伏線だったのかもしれない。

スカーレット・ヨハンソンにとってジュラシック・シリーズに出演するのは、10歳のときに映画館で『ジュラシック・パーク』を体験して以降、子供の頃からの夢だった。本作の制作の噂を聞きつけたスカーレット・ヨハンソンは、自らスピルバーグに面談を要請している。スピルバーグに「あっと言わせてみせます」と言った彼女の自信は、その言葉を証明するように本作に多大な貢献をしている。スカーレット・ヨハンソンは『ゴーストワールド』(2001)のときから、自分の納得できる脚本を充分に吟味してきた俳優である。どんな景色にも身体を馴染ませることができるが、どんな景色にも魂を馴染ませることができずにいるヒロイン像は『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)のような小さな映画から『ブラック・ウィドウ』(2021)のようなビッグバジェットの映画まで、スカーレット・ヨハンソンだからこそ成立させることができたイメージだったといえる。

クールでタフなゾーラには、戦場カメラマンのような、人間のあらゆる悲劇を見てきたイメージが宿っている。ゾーラはチームの頼もしいリーダーとして奔走しながら、何か別のものと戦っている。個人的な人生を再駆動させようと戦っている。スカーレット・ヨハンソンは、ゾーラのロマンスが描かれることを望んでいなかった。ギャレス・エドワーズによると、スカーレット・ヨハンソンによる“反ロマンス”の主張は、本作のあらゆる小さな決断に影響を浸透させていったという。