今回、吉永小百合主演の『最高の人生の見つけ方』(2019) で参加した犬童一心監督はこう語る。
「かつては二番館、三番館という映画館があり、吉永小百合特集が組まれれば、公開から数年が経っても、映画館のスクリーンで見ることができた。しかし、今は配信でモニター越しに映画を見る時代。この映画祭は無料ですし、みんなが集まってスクリーンで見る機会を生かしてほしい」
さらに犬童監督は、若者の参加も呼びかける。
「作り手や出演者が実際に来て話をしてくれます。映画を作っている人間や出ている人間は一見、遠い存在と思うかもしれませんが、実際は『ただのおじさんやおばさん』であり、普通の人間が職業としてそれを選んでいるだけだと分かります。『色々なやりたいことの中に、映画作りという選択肢がある』ということを、生身の人間を通して知ってもらうことは、若い人たちの職業選択にとっても良い機会になるのではないでしょうか」。このメッセージは、この映画祭が単なる観光イベントではなく、次世代の職業観を育む「教育の場」としての側面も持っていることを示唆している。

泉佐野市は、大手ポータルサイトに頼らず直営のふるさと納税サイト「さのちょく」を運営し、手数料を削減して納税者に還元するという独自のビジネスモデルで成功を収めている。
千代松市長は、市長がフィルムフェスの視察に訪れた神奈川県鎌倉市を例に出し、「泉佐野市には鎌倉のような歴史遺産はないが、今回、市を紹介するショートムービー (『キバちゃん泉佐野へ行く 食王への道』) を作ったように一歩一歩コンテンツを積み上げていきたい」と語った。
ないものねだりをするのではなく、ご当地映画のようなコンテンツを自ら作り、クリエイターを呼び込み、ファンを増やす。この泥臭くもしたたかなアプローチこそが、泉佐野市らしい戦略と言えるだろう。
第1回のフィルムフェスを機に、民間主導によるフィルムコミッションも2年後の設立に向けて準備を始めた。だが、「本格的なロケ誘致には、市内ツアーなどのアピールも必要」と犬童監督が提言するように、課題はまだ多い。 丸山氏も「新聞折込にチラシを入れたり、学校への配布など周辺地域へのプロモーションに力を入れたことで動員増に一定の成果を上げることはできましたが、東京からやってきた我々ができることは限られている」と語る。
映画祭は、映画ファンの増加と地域の発展をWin-Winの関係で結びつける可能性を秘めている。ロボットのようなプロの知見と、地元の熱意がどう融合していくか。泉佐野の挑戦はまだ始まったばかりだ。
文 ・撮影 / 平辻哲也