Mar 27, 2025 column

ふるさと納税で話題の泉佐野市が、今度は“エンタメ特産品”を仕掛ける 映画祭で地域を変える挑戦とは?

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「Lemino ROBOT短編映画コンペ」(22〜23日)はNTTドコモが提供する動画配信サービス「Lemino」と制作会社「ROBOT」が共催したコンペティションだ。2021年1月1日以降に完成した60分以内の短編作品が対象だが、計462本の応募があり、入選作10本が上映され、『のぼうの城』の犬童一心監督、『ミッドナイトスワン』の内田英治監督、『顔だけじゃ好きになりません』の耶雲哉治監督が審査に当たった。

短編コンペの司会を務めたタレントのヴィトルと俳優の辻凪子

応募作は「PFFアワード2024」の約700本には及ばないが、462本は映画祭の応募作としてはかなり多い部類に入る。グランプリ賞金50万円を始め、機材の無償貸与などの特典が若いクリエーターの心をつかんだようだ。

グランプリ (賞金50万円) には『ミヌとりえ』の全辰隆 (チョン・ジニュン) 監督 (35) 、審査員特別賞 (賞金5万円) には『ボウル ミーツ ガール』の関駿太監督 (2023) が受賞したが、惜しくも受賞を逃した8名の監督にも、サプライズが待っていた。「L R Project」と題した新規事業のパートナーに選ばれたのだ。

「詳細については調整中ですが、入選された10本の監督とは今後も一緒に仕事をしたいと思っています。ROBOTは『ゴジラ-1.0』を始め、さまざまな映画、ドラマを作っていますが、若いクリエーターとの結びつきはあまりないので、フェスを通じて、新たな才能を発掘することが重要だと考えています」と丸山氏。

ゲストが自作を解説するコメンタリー上映では『亜人』(ゲスト:本広監督&テレビ西日本の人気旅バラエティー「ゴリパラ見聞録」のディレクター、富永治明氏) 、『シン・ゴジラ』(ゲスト:樋口真嗣監督&俳優の松尾諭) 、『声優グランプリpresentsスペシャルトークショー』(ゲスト:天野聡美、涼本あきほ、阪口大助) 、活弁士と声優が無声映画にリアルタイムでアテレコする『声優コラボ!活弁映画上映』(弁士:片岡一郎、ゲスト声優:大西綺華、野島健児) などユニークなプログラムが行われたが、動員には課題も残る。

『突貫小僧』で活弁する片岡一郎
『声優コラボ!活弁映画上映』(左から) 弁士・片岡一郎、声優・大西綺華、野島健児

最も動員を集めたのは、鈴木亮平&有村架純共演の『花まんま』(ゲスト・前田哲監督、4月25日公開)の特別試写。同作は朱川湊人氏の直木賞受賞作を原作に、大阪の下町で暮らす兄妹のふれあい、記憶をめぐる感動ファンタジーで、地元を舞台にした話題の新作映画が無料で観られることから、大きな注目を集めた。

丸山氏も「プログラムを考えること、魅力的なゲストを集めることも大事ですが、映画祭を成功させるには、地元の協力が不可欠です。運営には地元ボランティアの協力が欠かせませんし、宣伝のやり方、チケット販売の方法なども考えていく必要があります」と話す。

筆者は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、湯布院映画祭、さぬき映画祭、くまもと復興映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭などを取材してきたが、一番大変なのは、継続することだと実感する。

例えば、温泉地として有名な大分・由布院(ゆふいん)で1976年から続く湯布院映画祭は、観光と文化を融合させた好例だ。地元の旅館と連携し、訪れる観客に地域の魅力を体験させる仕組みができている。映画上映だけでなく、監督とのトークイベントや食とのコラボ企画も人気となっている。

映画祭は単なる文化イベントにとどまらず、町の魅力を内外に発信し、「地域の物語」を紡ぐ場でもある。観光資源や特産品と連動させることで、滞在時間や消費額の増加も見込まれ、自治体にとっては大きな経済的チャンスとなる。エンタメがまちを変える時代。泉佐野発のこの挑戦が、一過性で終わらず、地域の文化として根付くことを期待したい。

文 ・撮影 / 平辻哲也