ハチャメチャなユーモア×挑発的な最新作
『ハウス・ジャック・ビルト』は、連続殺人鬼であるジャック(マット・ディロン)が、自らが重ねてきた凶行の数々を自慢気に告白するという体裁で進んでいく。ジャックは“サイコパス”であると紹介され、正直、多少の常識があれば誰もが胸糞悪くなるようなクズである。ところが最初のエピソードから、観客の善悪の基準を巧妙に揺さぶってくる。最初の犠牲者は、乗っていた自動車が故障してジャックの車に乗せてもらう女性(ユマ・サーマン)なのだが、これが殺人鬼のジャックならずとも癇癪を爆発させてしまいそうな、とんでもなく“ウザい”女性なのだ。
当然のことだが、いくら誰かがウザくても、殺人を犯していいわけがない。しかしトリアーの見事さは、ジャックの殺人衝動と、我々が日常で遭遇する“あるある”エピソード的なウザさをシンクロさせることで、観ている側の善悪の判断をも麻痺させてしまうのである。
もちろんトリアーは「殺人衝動を肯定しよう!」というメッセージを発しているのではない。ジャックという主人公が次々と打ち出す自己弁護の論理にも、いちいちツッコミを入れている。しかし本作には、何が善で何が悪であるのかという論争自体を笑い飛ばす挑発的な態度で貫かれており、観客が「いま観てるのは一体何の映画だっけ?」と自問自答してしまうような狂ったベクトルに暴走していくのだ。
トリアーはこれまでに数々のハラスメントを告発され、要注意人物としてマークされ、カンヌ国際映画祭では“ヒトラー擁護”とも取れる笑えない冗談を飛ばして7年間カンヌから追放されたりもした。『ハウス・ジャック・ビルト』の取材では、殺人鬼のジャックについて「非常に自分に近いキャラクター」だと恐ろしい発言もしている。しかし、ある意味では不謹慎コント集とも言える『ハウス・ジャック・ビルト』のハチャメチャなユーモアに触れれば、トリアーが映画を通じて自己弁護していると思う人は誰もいないだろうし、トリアーの過去作が不快だったと言う人も、また違うアングルから観直すことができるのではないだろうか。
文/村山章
1970年代の米ワシントン州。建築家になる夢を持つハンサムな独身の技師ジャックはあるきっかけからアートを創作するかのように殺人に没頭する……。彼の5つのエピソードを通じて明かされる、“ジャックの家”を建てるまでのシリアル・キラー12年間の軌跡。
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:マット・ディロン、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、シオバン・ファロン、ソフィー・グローベール、ライリー・キーオ、ジェレミー・デイビス
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
公開中
R18+
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公式サイト:http://housejackbuilt.jp/
DVD:5800円(税抜) Blu-ray:7800円(税抜)
発売中
発売元・販売元:バップ
提供:ブロードメディア・スタジオ株式会社
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