Jul 15, 2025 column

『火垂るの墓』Netflixでジブリ作品初の国内配信へ 「反戦映画」だけではない高畑勲が託した普遍の問い

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高畑勲が『火垂るの墓』に込めた想い

このような中で、戦争の記憶が薄れゆく現代において、『火垂るの墓』が持つ意義はむしろ増していると言える。高畑勲監督は生前、「この作品は、戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、“生きること”そのものの意味を問いかけるものだ」と語っていた。また、「観る人によって受け止め方が異なる作品だが、決して“反戦映画”という一言で括られたくはない。清太と節子の物語を通じて、家族や社会、そして自分自身と向き合ってほしい」とも述べている。

高畑勲が『火垂るの墓』に込めた想いは、単なる戦争の悲惨さの描写にとどまらず、「人が生きることの意味」や「社会の中での人間の在り方」を静かに問いかけるものだった。高畑監督は生前、たびたび「この作品は“反戦映画”という一言で括られたくない」と語っている。戦時下の兄妹がどのように生き、どのように社会と関わっていくのか。その姿を徹底したリアリズムで描くことで、観る者自身に「自分ならどうするか」「社会の中でどう生きるか」を考えさせるきっかけとなることを強く望んでいた。

「清太は、社会から孤立し、結果として妹を死なせてしまう。これは戦争だけでなく、現代社会にも通じる“孤立”の問題だ」と高畑は述べる。戦争の非情さだけでなく、極限状況下で人がどのように他者と関わり、どのように生き抜くか。その選択の重さを、アニメーションという表現手法で真正面から描いた。

彼は「アニメーションは子ども向けという先入観を打ち破りたい」とも語り、背景や小道具、登場人物のしぐさに至るまで細部に徹底的にこだわった。観る者に“本当にあった出来事”として感じてもらうことを目指し、時代考証や生活描写のリアリティを追求したのだ。

また、「涙を誘うためだけの物語ではない」とも強調している。「感動して泣くことだけが目的ではなく、観る人が自分自身や社会との関わりを見つめ直すきっかけになってほしい」との思いが込められている。観客の年齢や立場によって受け止め方が異なることも高畑は歓迎していた。「それぞれの人生経験によって、清太や節子の行動の意味が変わってくる。それがこの作品の普遍性だ」と語っている。

『火垂るの墓』は、戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、「生きること」「社会と人間の関係」「家族の絆」といった普遍的なテーマを問いかける作品だ。高畑勲のメッセージは、時代や国境を越えて多くの人々の心に響き続けている。彼の「人は社会の中で生きている。どんなに理不尽な状況でも、他者とどう関わるかが生死を分ける」という信念は、現代を生きる私たちにも深い問いを投げかけている。

2025年8月15日(金)は、戦後80年という節目を迎える。同日、7年ぶりに「金曜ロードショー」で放送される。その1ヶ月前の7月15日からは、Netflixでの独占配信が開始する。戦後80年を経て、今ふたたびこの作品の価値が再び問い直されようとしている。

文 / 河嶌太郎

【参考文献】「カナロコ by 神奈川新聞 / 時代の正体〈47〉過ち繰り返さぬために」「with news /〝悲惨〟だけを伝える映画は無力 高畑勲監督が語る「火垂るの墓」」『スタジオジブリ作品関連資料集II』『ジブリの教科書4 火垂るの墓』『映画を作りながら考えたこと』ほか

作品情報
映画『火垂るの墓』

直木賞を受賞した野坂昭如の短編小説を原作に、巨匠・高畑勲監督が映画化。1988年に劇場公開された。

監督:高畑勲

原作: 野坂昭如「アメリカひじき・火垂るの墓」(新潮社)

© 野坂昭如/新潮社, 1988

2025年7月15日(火) Netflixにて国内配信開始