テレビ放送が減った理由
『火垂るの墓』がジブリ作品初のネット配信に動いた背景には、近年のテレビでの放送機会減少も大きく関係している。この背景には、時代の変化とともに社会やメディア環境が大きく変容したことが密接に関わっている。かつては夏休みや終戦記念日を迎えると、家族そろってテレビの前で本作を観ることが一つの風物詩のようになっていた。しかし、時代が進むにつれ、その光景は徐々に姿を消していった。

『火垂るの墓』は1989年の初放送以降、2025年までに日本テレビ系列「金曜ロードショー」で計14回放送されている。放送日は1989年8月11日、1990年8月17日、1993年8月13日、1997年8月8日、1999年8月6日、2001年8月10日、2003年8月22日、2005年8月5日、2007年9月21日、2009年8月14日、2013年11月22日、2015年8月14日、2018年4月13日、そして2025年8月15日(予定)だ。
映画公開直後の1989年と1990年は2年連続で放送されたものの、その後は2年から4年に1回のペースが基本となり、2018年以降は7年もの空白期間が生じている。2018年だけ4月に放送されたのは、2018年4月5日に高畑勲監督が亡くなり、急遽追悼番組として放送されたためだ。
放送機会が減った理由は、視聴率の低迷が原因だとみられている。1989年の『火垂るの墓』初回放送では20%を超える高視聴率を記録し、2001年の放送でも21.5%という数字を叩き出した。しかし、2000年代後半からはその数字が一気に下がり始め、2013年には9.5%、2015年には9.4%、2018年の追悼放送時には6.7%と、かつての勢いは見る影もなくなった。テレビ局は編成において視聴率を重視せざるを得ず、数字が見込めない作品はゴールデンタイムから外される傾向が強まっていった。

この背景には、作品自体が持つテーマの重さもあるとみられる。『火垂るの墓』は戦争の悲惨さ、家族の絆、命の尊さを真正面から描き出し、幼い妹・節子の死や兄妹の過酷な運命を容赦なく見せる。そのリアルな描写は「トラウマ映画」とも呼ばれ、視聴者、とりわけ子どもに与える精神的な影響が大きいとされてきた。
近年のテレビ放送では、家族で安心して楽しめる内容が求められる傾向が強く、重いテーマやショッキングな描写を含む作品は編成上、敬遠されやすい。スポンサーや広告主もまた、視聴者の反応や広告効果を重視するため、重厚なテーマの作品には慎重な姿勢を取ることが多い。
さらに、メディア環境の変化も無視できない。特に2010年代以降、インターネットや動画配信サービスの普及により、視聴者は自分の好きなタイミングで好きな作品を選んで観ることができる時代になった。かつてはテレビ放送が唯一の鑑賞機会だったが、今やDVDやブルーレイ、配信サービスを通じていつでも『火垂るの墓』に触れることができる。こうした変化はテレビ局の編成方針にも影響を与え、より幅広い層に安定して支持される『となりのトトロ』や『天空の城ラピュタ』といったジブリ作品が優先的に放送されるようになった。