Apr 15, 2022 column

第9回:今夏が待てないハリウッド大作『ブレット・トレイン』

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コロナ禍で封じ込められてる間に企画、そして撮影された今夏公開映画の予告編が続々公開されている。先月、劇場で公開された予告編の中で最も目を引いた映画が『ブレット・トレイン』。主演のブラッド・ピットが金田一耕助のような帽子をかぶって日本の新幹線に乗り込み、走る車両の中で銃や刀が飛び交うアクション満載のこの映画は、伊坂幸太郎 著「マリアビートル」が原作である。英訳された小説は「今までで最も熱中して止められない本」「ダークなユーモアやひねりが効いていてたまらない」など英語圏読者の評価も好評。ハリウッド大作のリメイク作品が並ぶ、今年の映画ラインナップの中でひときわ注目を集めている。

知られざる日本のコンテンツ

読者ベースで批評・投票する米グッドリーズによると、日本人作家の人気ベストテン中、7作品が村上春樹作品という結果がでている。ベスト4に高見広春の『バトル・ロワイアル』、ベスト7に桐野夏生の『OUT(アウト)』、そしてベスト9に吉本ばななの『キッチン』と少数の日本人作家だけに注目が集まっていることが窺える。近年、出版物の多様性が重要視されるようになり、米英出版社の意識も変わって、日本の英訳本の質も量も向上していることは確かである。海外で出版ビジネスを展開している日本の会社もあるが、ハリウッドの映画化やリメイク権の契約などは日本の映画会社が制作した映画などを介して行われることが多かった。

知的財産、略してIP(インテレクチュアル・プロパティ)の売り買いはハリウッド映画やメディアの根底にある大きなビジネスで、今まで、日本からはゲームやアニメなどが中心だったといえる。映画化権は売れても期間限定で契約期間中に実現しなかった作品も多く、IPビジネスで成功することは難しい。良質な作品ましては、ヒット作をいわゆるジャパニーズIPベースに生み出すのはその後のキャスティング他、米国側のプロデューサーや監督のセンスでも大きく変わり、日本の製作側と意見が噛み合わない場合も多々あるのが現実である。

今回、日本で約10年前にベストセラーとなった「マリアビートル」の英訳本が伊坂氏の英語圏デビュー作として発売されたと同時に、映画化がとんとんと決まっていった理由は、日本の株式会社CTBの代表取締役、三枝亮介氏と寺田悠馬氏のたくみなセールスプランとハリウッド映画を想定したピッチ(売るための交渉術)の成果にある。CTBのウェブサイトでは伊坂幸太郎氏の他に、阿部和重、田中慎弥、深水黎一郎の海外著作権を取り扱っていて、作家のエージェント業、企画やプロデュース業を行う業務が米国、そして中国でも展開していることが分かる。『ブレッド・トレイン』では三枝氏と寺田氏の両氏ともにエグゼクティブ・プロデューサーとして名を馳せていて、この作品が成功例となって、あらゆる作品が今後、発信されていくようである。