イラン (仏出品)
近年、映画芸術科学アカデミー協会員のグローバル化が急速に行われ、カンヌで評価が高かった映画がそのままアカデミー賞に反映される傾向は今年も類似している。仏出品『シンプル・アクシデント/偶然』(仏、イラン、ルクセンブルグ共同製作) としてアカデミー賞ノミネート入りしたジャファル・パナヒ監督はアカデミー賞国際長編映画賞の常連。古くは『白い風船』『クリムゾン・ゴールド』『オフサイド・ガールズ』『人生タクシー』『これは映画ではない』『熊は、いない』などや、カンヌ国際映画パルムドール受賞作『桜桃の味』で知られるイランの巨匠。反体制的な創作活動のため、2010年から禁錮6年、映画製作などの禁止を言い渡されていたが、2023年に海外渡航禁止が解かれ、この作品でカンヌ国際映画祭で28年ぶりに最高賞を受賞している。去年12月1日、イランの欠席裁判で、新たな懲役の刑を宣告された監督だが、この映画のプロモーションですでに数々の映画祭を訪れている。

物語は、不正な理由で投獄中、拷問を受けた過去を持つワヒドが主人公。イラン政府の独裁システムの下で静かに生きていたある日、自らをリンチした男に偶然出会う。思わず、復讐心がつのって、男を捉えるワヒド。焼きついていたはずの拷問者の顔をはっきり脳裏に描けず、本当にあの男なのかと自問自答するワヒドは、次々と投獄仲間を探しだしてその顔の認証をはじめる。男に復讐したいが、彼にも家族がいることが発覚。ラヒドの良心との戦いは、コメディタッチでありながらも緊迫感溢れる社会派スリラーとなっている。
ジャファル・パナヒ監督は、1月14日に行われたナショナル・ボード・オブ・レビュー賞受賞スピーチで胸を打つスピーチで母国の惨状へのサポートを世界に訴えていた。
「シネマは私たちに笑いと涙、危惧と安堵をもたらし、愛と救済をもたらしてくれます。しかし、今、本当のドラマはイランの街中で起こっています。(途中略) 私の映画監督としての義務は、アーティストや世界中のフィルムコミュニティに対して、沈黙を破り、どんなプラットフォームを用いてでも人権が犯されている破滅的な状況に対して発言してほしいと心から懇願することです。現状に目を背けたり、その生き血をドライにしないでください。今、シネマは身を守ることができない人たちの側に立っています。レッツスタンドアップ ! 」といわば、勇猛果敢に生きましょうと、スピーチした。
去年も、国際映画賞にノミネートされたイラン人監督による『The Seed of the Sacred Fig (原題)』(仏、独製作) も、蔓延るイランの体制が、家族内まで分裂をおこすことを描き、根っこから外側を食い尽くす悪の根源についてのスリリングなドラマを描いていた。反体制的な作品を作りつづけるイラン系の監督たちもまた、去年のアカデミー賞では健闘し、アニメ短編映画賞を受賞した『In the Shadow of the Cypress (原題)』もまた、イランのアニメーション業界にとって快挙となり、イラン人映画制作者の作品は今、とくに目が離せない。