Dec 17, 2025 column

空・海大バトルが半端じゃない ! VFX映画の最高峰『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』 (vol.79)

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監督はもともと海、そして自然が大好き

私も若い頃、ダイビングのライセンスを取得して沖縄、石垣島の海の底で、雲がなびいていくかのように大きなマンタレイの影を海の中で感じ、美しい珊瑚に囲まれながら、遠くにいる鯨の声に耳を傾けたことがある。いまだからこそ、地球、そして海の環境問題は大きく問われているが、キャメロン監督は全世界で驚異的なヒットを放った『タイタニック』(1997) の成功のあと、海底3,650メートルに沈んだ北大西洋に眠る実在のタイタニック号の真実を探るために、当時、最先端のリアリティ・カメラ・システムを開発。ドキュメンタリー映画『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密 (原題:Ghost of the Abyss) 』(2023) でその冒険を視聴することができる。

以来、深海域調査のために、自ら有人潜水艇を7年間かけて開発し、新たな深海の探求者として2012年、グアム沖のマリアナ海溝に単独で潜航し、世界初の快挙を成し遂げた記録映画もまたディズニープラス、ナショナル・ジオグラフィックのドキュメンタリー番組「ジェームズ・キャメロン 深海への挑戦」(2014) で視聴することができる。

趣味と仕事がいっしょになり、いつの間にか環境や自然界の求道者のような活動をつづける監督。映画『アバター』シリーズの中では、それぞれの種族が創造され、さまざまな生物環境化学を学ぶかのように、部族環境の動植物の有様まで追求している ( PANDORAPEDIA ) 。たとえば、ザ・ツリー・オブ・ボイス (声の木) という場所はオマティカヤ族の精霊が住む場所。木の種がくらげのように飛び交うときが神聖な場所のサイン。ナヴィの後頭部から伸びた神経繊維フィーラーと熱帯雨林が交わるとき、過去の記憶が秘められた神聖な場所で、ナヴィたちは亡くなった人たちに再会することができる。物語の根底にはそういった不思議なナヴィ自然界の掟や、陸海洋生物たちとのハーモニーの中で生きるというナヴィのモットーがより明らかに描かれ、最新作の第3作へと続いている。

『アバター』(2009)

今作ですごいのは、今まで登場してきた森の民 (主人公の“ジェイク・サリー”が率いるオマティカヤ族) 、海の民に続いて火山帯に暮らすナヴィの過激な種族、灰の民 (Ash People) 、そして自由人精神にあふれるパンドラの遊牧民ウィンド・トレーダーズという風の部族など、善と悪の世界観がどんどん広がっているところ。それは前作を超える空・海 大バトルの始まりである。人間側では、人の身体を捨てた元海兵隊員の“ジェイク・サリー”のアバター化過程とは違う、海兵隊のメモリーと遺伝子組み換えで生まれたナヴィのハイブリッド戦士 (リコビナント) も登場するなど、『スターウォーズ』さながらの豪華な陸海兵器のラインナップで見事。

この3時間17分という最新作は、やはり1作目と2作目を観ていてこそ、より楽しめる大作だが、そんな時間はないという人に簡単なおさらい。

第1作『アバター』の舞台は2154年。滅亡に瀕した人類が宇宙の星、パンドラにやってきた。主人公元海兵隊員“ジェイク・サリー”は遺伝子組み替えでアバターとなり、パンドラの調査に派遣される。森の民、オマティカヤ族の“ネイティリ” (ゾーイ・サルダナ) に恋に堕ち、パンドラの自然体系に魅了されたことで、ジェイクはRDA (資源開発会社−Resources Development Administration) の任務を放棄して、ナヴィ側についたことにより海兵隊大佐“クオリッチ”の敵となる。

『アバター』(2009)

第2作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で、RDAのクオリッチと海兵隊から逃れるため、故郷の森を去り、ノマド (遊牧民) となって行き着いたジェイク・サリー一家が迎えいれたのが海の民メトカイナ族。ジェイクの娘として育った、ナヴィ研究の第一人者グレース博士のアバターの子ども“キリ” (シガニー・ウィーバー) が美しい娘に成長し、ナヴィ伝説の女神エイワにつながるパワーに目覚めはじめる。サリー家にはもう一人、子どもたちと戯れる人間の子どもがいた。幼い頃にパンドラに取り残されたクオリッチの実の息子。足早にあちこちに飛ぶように駆け抜けるため、“マイルズ”がつけたあだ名は、蜘蛛を意味する“スパイダー”。やんちゃなジェイクの次男“ロアク”は海の民の族長の娘“ツィレヤ”と恋仲になり、インテリジェントなパンドラの鯨のような生物“トゥルクン”のはみだしもの“パヤカン”と友情を結ぶ。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)

第3作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』では、森の民の戦士でサリー家の母である“ネイティリ”の苦悩から始まる。長男を失った苦悩は、人間へのヘイトに置き換えられ、家族の不協和音に夫婦が揺れる。しかし、次世代のパンドラを担う子どもたちが勇気を振り絞り、その困難に立ち向かっていく。新顔の注目株は灰の民。炎を操りながらパンドラの支配を目論む女性リーダー、“ヴァラン”を演じるのが、チャーリー・チャップリンのひ孫のウーナ・チャプリン。RDAの脅威の下で、パンドラという楽園の星を守れるのか。映画のキャンペーンで設置されたパンドラの展示を楽しむ人々はその世界観、丹念に作られた衣装やプロップで映画の余韻を楽しんでいた。

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』

舞台は、神秘の星パンドラ──地球滅亡の危機に瀕した人類はこの星への侵略を開始。アバターとして潜入した元海兵隊員のジェイクは、パンドラの先住民ナヴィの女性ネイティリと家族を築き、人類と戦う決意をする。しかし、同じナヴィでありながら、パンドラの支配を目論むアッシュ族のヴァランは、人類と手を組み復讐を果たそうとしていた。パンドラの知られざる真実が明らかになる時、かつてない衝撃の”炎の決戦”が始まる!

監督:ジェームズ・キャメロン

出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、ブリテン・ダルトン、トリニティー・ジョリー・ブリス、シガニー・ウィーバー、ジャック・チャンピオン、ケイト・ウィンスレット、ウーナ・チャップリン、スティーヴン・ラング

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

2025年12月19日(金) 日米同時公開

公式サイト 20thcenturystudios.jp/movies/avatar3

『アバター』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『炎と水―メイキング・オブ・アバター』『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』はディズニープラスで配信中

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。