Dec 17, 2025 column

空・海大バトルが半端じゃない ! VFX映画の最高峰『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』 (vol.79)

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映画はもう配信で観ればいいと思っている人たちに「待った ! 」をかけるジェームズ・キャメロン監督、待望のシリーズ第3作『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』。常に出来ないことに挑戦していきたいという監督の情熱と執着は大ヒットシリーズ『エイリアン』『タイタニック』からさらに躍進させた未来SF大作を創造し、CG撮影技術の限りを尽くしたVFXの可能性をリードしている。心を震わせる映像美と空・海 大バトルのアクションはIMAXまたはドルビー、4DXのプレミアム・ラージフォーマットで体験したい映画ファンへのクリスマス・プレゼントだ !

キャメロン監督の情熱と役者たちの素潜り演技

画期的な海底ファンタジーを描いて、VFX 3Dの映像美で我々のど肝を抜いた『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022) 。スタッフがそれぞれ体力的にも限界にチャレンジしたこの映画の撮影では、マンハッタンビーチのスタジオに巨大プールが設置され、その水の中での演技を要するという通常の演技以上の訓練がほどこされた。フリーダイバーとして、長年訓練してきたキャメロン監督は、“キリ”を演じたシガニー・ウィーバーと、海の民メトカイナ族のリーダーの妻 “ロナル”を演じたケイト・ウィンスレットが、約7分15秒という記録を更新して、自分のダイバー記録を抜いたと微笑みながら話す。

監督とこれまで仕事を共にしてきたキャストやスタッフとの連携は固い。心身の限界に挑戦するトレーニングに身を投じた役者たちへの愛は、ロサンゼルスの北、バーバンクのディズニースタジオで行われたプレス用の試写でも伝わっていた。映像の冒頭に出てくるキャメロン監督自らの特別メッセージ映像では、「この映画は生成AI (ジェネレーティブAI) は使っていません。全てが生身の役者の演技、映画製作スタッフの努力の証です ! 」と、撮影過程を記録したドキュメンタリー『炎と水―メイキング・オブ・アバター (原題:Fire and Water: Making of the Avatar Films) 』 (ディズニープラス) のクリップを紹介しながら、いかに脚本家やカメラマン、セットデザインや衣装に編集ほか、俳優など人間のスタッフがいてこそ可能になった映画であることを熱心に語りかけていた。

俳優の演技をトレースするパフォーマンス・キャプチャーは、人間関係がなくては成り立たないというキャメロン監督。より自然なSFの世界観を創造するために、多数のカメラが俳優の動きを追いかけ、顔の表情だけでも、GoProのような小さなカメラが2個設置されるなど、撮影に関わったカメラマンの一人は、現場はまるでNASAの宇宙ステーションのようなハイテクな現場だったと語る。カメラ、そしてコンピューターが捉える生の演技を最新VFX技術を使って作り出してきた監督の、ハリウッド業界が一部移行しつつある生成AIを使った映画製作に対するブレーキは、耳を傾けるべき重要なメッセージ。

監督はカナダ出身。子どもの頃からSFコミックブック、小説、テレビ番組などに没頭し、アメリカのコミュニティ・カレッジで海洋学ほか、雑学を学ぶ。卒業後、ついた仕事はトラック・ドライバー。現在の監督業とはかけ離れた仕事をしながら、ハイパーコネクティブな人と物、音楽、情報などのデータが超連結されたスペースバトルを常に想像していたのだそうだ。『スターウォーズ』(1977) が興行ナンバーワンなら、それ以上の世界観を想像できる僕にでも出来るはず ! と映画制作のキャリアを目指す。しかし、フィルムスクールに通うお金はなく、トラックを運転していない週末に、USC (ルーカスなどが通ったフィルムスクールのある南カリフォルニア大学) に赴いたのだそうだ。当時のフィルムを使った特殊効果映画の撮影法を学ぶために、フィルム撮影で行うための視覚効果用オプティカルプリントや、『オズの魔法使』(1939) や『2001年宇宙の旅』(1968) に使用されたフロントスクリーン・プロジェクション、『メリー・ポピンズ』(1964) などで開発されたソディウム・ヴェイパー・プロセス (ブルースクリーンに代わる光化学テクニック) や、被写体が動いている状態で画面合成するトラベリング・マットなど、VFX映画の学術的文献を読みまくり、その大量のコピーを持ち帰って自らの教科書を作成。歴史的VFXの撮影技術を取得した上で、撮影監督としての仕事にたどりついたのだそうだ。

『殺人魚フライングキラー』(1981) で監督デビュー。物語は陸軍が開発した生物兵器のピラニアが飛び魚と交配して、空飛ぶ殺人魚がカリブ海のリゾートを襲うという内容。当時それほど評価されなかったが、その3年後に『ターミネーター』(1984) の大ヒットで、見事、一目置かれるVFX映画の監督として注目され、現在もその地位は揺るがない。

先日、Netflixへのワーナーブラザース売却に遺憾も示し、映画製作が巨大配信コングロマリットに飲み込まれてほしくないジェームズ・キャメロン監督の願いは明らか。パフォーマンス・キャプチャーは生成AIと比べて、人間の仕事を置き換えるものではないと主張。人間関係が不可欠なパフォーマンス・キャプチャーはシアターリハーサル (ゲネプロ) のようなものだそうだ。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022) のお披露目の際、女優シガニー・ウィーバーも、「この歳になって、若い“キリ”を演じられるなんて、役者冥利につきる」と、役者の年齢に関係ない、画期的なCG技術撮影の革命に感銘していた。

『アバター』シリーズの構想は5話あると公表されているが、共に映画製作の大波をくぐり抜けてきたプロデューサーのジョン・ランドーが昨年他界し、さらに最新映画の興行成績によっては続編がどうなるか‥‥など、大きな賭けとなるこの映画。中弛みのないド迫力映像アクションが観客に続編を待望させることは間違いない。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』会見写真 2023@DGA 撮影/ 著者