ウィキッド 男たちの葛藤
魔女たち、女性たちが中心となって織りなすこの映画だが、男性の登場人物の葛藤は、2人の魔女の心を揺るがす大きな役割を担っている。ディズニー・プリンセスにでてくるような、馬に乗って現れたプリンス・フィエロを演じたのが、英国若手男優ジョナサン・ベイリー。先月のヴァニティ・フェア誌でも特集されていた。今年の話題作の多くは若手男優の活躍が目白押しで、とくに英国若手男優の主演映画が注目されている。『ハムネット』のポール・メスカル、『F1』のダムソン・アイドリス(英国とナイジェリア人の両親の元に生まれた俳優)、『Rebuilding (原題) 』のジョッシュ・オコナー、そして、フィエロ役のジョナサン・ベイリーと、英国男優の個性的な存在感はそれぞれが魅力的。
ジョナサン・ベイリーは元はダンサーをめざしていたそうで、英国ミュージカルの舞台でオリバー賞を受賞するほどの歌に踊りにと役者としても多才。彼はNetflixのドラマ「ブリジャートン家」の妹思いの兄アンソニー役で、一躍お茶の間の人気男優に。『ジュラシック・ワールド:復活の大地』(2025) でのヘンリー博士役では、主演のゾーラ役を演じたスカーレット・ヨハンソンに劣らない存在感で大作映画の顔となっている。そして『ウィキッド』では、エルファバとグリンダ両者の間で恋の板挟みとなる存在を演じ、エルファバの価値観に魅了されてパート1での自由人から、パート2ではグリンダや周囲の期待に応えるかのようにオズの警備長として自らの役割を演じる。しかし、自らの心を裏切らない勇気ある男性として成長。最後は驚きの展開が待ち受けている。



そして、”オズの魔法使い”を演じるのが、ジェフ・ゴールドブラム。決して悪意はないが、自らのショーマンシップで周囲を巻き込み、気がついたら、イリュージョンの帝になっていたという人間。オズは良いこともしたけれど、悪いこともしてきた。オズに魔力がないことを知ったエルファバによって、これまで構築してきたエメラルドシティを奪われ、さらに自らの地位から下されることを恐れ、動物たちを犠牲にする弱い人間を演じている。



ゴールドブラムは『ザ・フライ』(1986) でハエ人間を演じて一躍有名になる。それからスピルバーグ監督作『ジュラシックパーク』シリーズの常連となる。もともとジャズピアニストでもあるゴールドブラムは軽やかなダンスムーブも含め、オズ役には最適で、監督ジョン・チューの作り上げた”オズの魔法使い”の世界観にぴったりなだけでなく、ラストでは、エルファバがなぜ緑の肌なのかという秘密を握る存在として、永遠の魔法使いオズのイメージを見事に演じ切っている。日本では来年の3月に公開。
文 / 宮国訪香子

“悪い魔女”として悪名を着せられ民衆の敵となったエルファバは、オズの森に身を潜めながら、言葉を奪われた動物たちの自由のために闘い続け、“偉大なるオズの魔法使い”の噓にまみれた正体を世に暴こうとしていた。一方のグリンダは“善い魔女”としてオズの国にとって希望の象徴となり、名声と人気の恩恵を満喫する日々。しかし、その心にはエルファバとの決別が影を落としていた。シズ大学に通っていた頃、エルファバとグリンダはぶつかり合いながらも「ふたり一緒なら 何だってできる」と、互いに心を通わせた。そして今、正反対の道へと駆り立てられたふたりは、かけがえのないかつての友に、もう一度向き合わなければいけない。自らを、そしてオズという世界そのものを、永遠に変えるために。
監督:ジョン・M・チュウ
原作:ミュージカル劇「ウィキッド」(作詞・作曲:スティーヴン・シュワルツ 脚本:ウィニー・ホルツマン) /グレゴリー・マグワイアの原作小説に基づく
出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、イーサン・スレイター、ボーウェン・ヤン、マリッサ・ボーディ、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム
配給:東宝東和
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2026年3月 全国ロードショー