Nov 28, 2025 column

記録やぶりのミュージカル映画 『ウィキッド 永遠の約束』旋風到来 ! (vol.78)

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悪い魔女 (ウィキッド) というレッテル

パート2はエメラルドシティの道案内に使われる黄色い煉瓦のイエロー・ブリック・ロードから始まる。映画『オズの魔法使』を知る世代なら、それがハリウッドマジックの象徴だったことは明らかだろう。1939年当時の映画は白黒からカラー画面に変わり、テクニカラーの最新技術を駆使。竜巻という自然現象をリアルにスクリーンに映し出しただけでなく、愛犬トトをさがして家ごと飛ばされて未知の国に降り立つドロシーの冒険物語が始まるのも、このイエロー・ブリック・ロードだった。

特撮、そしてまだあどけないジュディ・ガーランドの演じた少女ドロシーの物語は、ハリウッド映画の頂点に君臨し、20世紀の映画史に残る名作として、現在でも愛され続けるクラシック映画である。ハロルド・アーレン作曲の楽曲「Over the Rainbow」は、多くの映画ファンがそらで口ずさめるほど美しい旋律。それはせつなくも希望にあふれるメロディで「虹の彼方」のユートピアをイメージさせた。

映画は瞬く間に、少女ドロシーが導く理想郷を作り上げ、表面で見えているものが必ずしも本質でないという、差別などに反対するメッセージ性が賛美された。LGBTQやゲイプライドの旗がレインボーカラーなのは、この映画から発信されたのかと思いがちだが、1978年にその旗を考案したギルバート・ベイカーは直接、関係はないと宣言。しかし、映画の主人公ドロシーの名前は「フレンズ・オブ・ドロシー (FOD) 」というLGBTQを支持するコードワードとなって、少女ドロシーの同士、イコール、偏見や差別から解放されることを望む仲間たちを指し、ユートピアな世界への夢が掲げている。

竜巻によって未知の国に飛ばされたドロシーと愛犬トトの家が、東の魔女を下敷きにしてしまったことから、ドロシーの運命は大きく変わる。オズの国のマンチキンたちに歓迎されたドロシーは、空からやってくる良い魔女グリンダに讃えられ、家の下敷きになった東の国の魔女のキラキラの靴を与えられる。ドロシーは「家に帰りたい」という願いを叶えてもらうために、黄色いブリックロードを道案内に、オズの住むエメラルドシティに向かって旅にでかけるのである。その旅を邪魔するのが東の国の魔女の姉、西の国の魔女。

この”西の国の魔女=悪い魔女(Wicked ウィキッド)” が、新しいコンセプトで一新された原作、そしてミュージカルの始まりなのである。。オズの魔法使いの表記を読み直すと、家の下敷きになったのが妹、東の国の魔女で、西が姉。西も東も悪い魔女、グリンダは良い魔女グリンダ。

(パート1についてはこちら) クリティックス・チョイス・アワード主要部分含む11部門ノミネート! 舞台ミュージカルを超えた 映画『ウィキッド ふたりの魔女』

パート1『ウィキッドふたりの魔女』の最後で、悪い魔女 (ウィキッド) とレッテルを貼られたエルファバは信念に導かれるまま、マダム・モリブルの意向にそむいて反撃。一方で、それほど魔法の力を持たないグリンダは、オズと同様、マダム・モリブルのパペットのような存在となり、常に皆の人気者である役割を遂行。打算的に自分を嫌いながら、自分を大きく見せる仮面を被り、いつしか、それが白日の元にさられるであろうことを予感していた。。権力と対立するエルファバとの友情は復活するのか、フィエロとのロマンス含め、盛りだくさんなパート2はグリンダの歌唱力とともにバブリーな住まいに衣装とは裏腹な内面の苦悩が描かれている。