スピルバーグのアンブリンが映画化権取得
2020年に刊行した「ハムネット」が英女性小説賞ほかを受賞し、スティーブン・スピルバーグのアンブリン社が映画化権を取得。監督に抜擢されたのが『ノマドランド』でアカデミー賞を受賞した監督クロエ・ジャオ。10月5日、トロント映画祭での好評を受けて、ロサンゼルスのCAAでプレス試写。監督クロエ・ジャオと女優ジェシー・バックリーとともに舞台に登壇して会見した 。

” 映画は知られざる世界に入り込む旅 “
「この作品を完成させるための私の旅は知られざる世界に入り込むことから始まりました。それは、この映画のエンディングが見えていなかったからです。脚本の段階では、最後のクライマックスは大まかなことしか書かれていなかったのです。しかし、この作品を映画として表現するためには、リニアで順序立てられた表現ではなくて、スパイラル、連鎖的に次々に物事と人がつながっていくように語らなくてはならないと思ったからです。撮影残り4日前に、これだ ! と気がつきました。ラストはこうあるべきではと撮影の流れから感じていて、誰にも話していなかったのですが、ジェシーも同じことを感じていたようで私たちは同じ鼓動に導かれていました。カタルシスが彼女自身の体に宿るかのように、私と役者との信頼関係の上で、この映画のラストシーンが生まれたのです。」

” ジェシー・バックリーもジャオ監督と以心伝心 “
「この映画の作曲家であるマックス・リヒターの音楽「On the Nature of Daylight」を聴いていて、それをクロエ監督に送り、まるで、潮の満ち引きによって派生する波に飲み込まれるようにこの役に入っていきました。それも、シェイクスピアを産んだあのロンドンのグローブ座の舞台で、演劇のパワー、舞台に立つ役者と大勢の観客が一体になる中で息を吸い、そして吐き出し、アグネスが一人では耐えられない悲しみの喪失感からの癒しをその演劇の空間の中で感じたのです。それは人として生きることの極限の狭間で、それがシェイクスピア作品の深く洞察された人間心理なんだと実感したのです。」と監督に導かれた役を超えた自身の夢幻体験を赤裸々に語っていた。


” 原作を脚色するプロセスについての質問に対して “
「原作はハムネットの最後の日の出来事になっていて、ノンリニアでフラッシュバックで物語が語られます。でも映画の場合はそうすると、モーメンタムが消えてしまうので、マギーが最初に脚本をリニアに書き直して、私がそれを書き改め、最後はNYからロスの4時間の列車の中で一気に最終原稿を完成させました。私は英語のネイティブスピーカーではないので、マギーが書いた脚本に関して、私がボイスメールを送って変更を加え、彼女の原作を踏まえた視点があったからこそ、この脚本は完成できました。自然と共生して生きた先住民族が語り手となることの立場をわきまえていたように、この脚本も、私がこう書くのだと決めるのではなく、物語があなたを探しあてるかのように、最初は小さく耳にささやきかけ、最後はハリケーンのように怒涛のように押し寄せる感じでやってきました。そうなって初めて、私がその天からの声に応えるときで、私はただ物語を伝える上での執事のようなもの。」とあくまでも謙虚な姿勢で、彼女が公表している自らの発達障害、ニューロダイバージェント(神経多様性障害)によって、人よりも過剰に刺激を感じる性質だからと、自ら監督として俳優たちの多様な感情を事細かく読み取り、それを全て受け入れた成果がここにあるのだと、映画のみならず、会見そのものが神秘的で憂いがあった。

そして、そのあとのレセプションでも、隣でしくしく泣いていた男性陣も映画を見終わったあとの余韻冷めやらぬまま、監督に映画を観終わったあとの感動を伝え、ジャオ監督は「私も大切な人を失った悲しみの底にいたから、物語が私を語り手として選んでくれただけ。」と別世界から返事をするような静かな語りで、感動冷めやらない観客とジャオ監督の会話に大勢の観客が耳を傾けていた。
文・写真 (一部) / 宮国訪香子

舞台は16世紀イングランドの小さな村。薬草の知識を持ち、不思議な力を宿したアグネス・シェイクスピアと、作家としてロンドンで活動する夫ウィリアム・シェイクスピア、そして3人の子どもたちが描かれる。夫がロンドンで働くため、父親不在のなかで子どもたちを守り奮闘するアグネスだったが、やがて不運にも11歳の息子ハムネットを失う。
監督:クロエ・ジャオ
製作:スティーヴン・スピルバーグ、サム・メンデス
出演:ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、ジョー・アルウィン、エミリー・ワトソン
配給:パルコ ユニバーサル映画
©2025 FOCUS FEATURES LLC.
2026年春 公開

開催期間:2025年10月27日(月)~11月5日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
◆オープニング作品
『てっぺんの向こうにあなたがいる』
監督:阪本順治
2025年10月31日(金) 公開
公式サイト teppen-movie
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
◆センターピース作品
『TOKYOタクシー』
監督:山田洋次
2025年11月21日(金) 公開
公式サイト movies.shochiku.co.jp/tokyotaxi-movie/
©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
◆クロージング作品
『ハムネット』
監督:クロエ・ジャオ
©2025 FOCUS FEATURES LLC.
公式サイト tiff
 
             
             
     
     
     
     
     
     
    