前作『Mr.ノーバディ』を見なくても十分楽しめる続編『Mr. ノーバディ2』
家族想いの父親ハッチは疲れていた。仕事に明け暮れる毎日で、家族からもいてもいなくても分からないような存在感のなさ。中年サラリーマンは元FBI捜査官。暴力は極力避けていたにもかかわらず、堪忍袋の尾が切れて、バスの中でチンピラを瀕死の状態にしたことで、チンピラの父親であるロシアのマフィアが動き出し、壮大な銃撃戦で終わった一作目。マフィアの金を燃やした後始末で、パート2では、次から次へと借金を返すべく殺し屋としての仕事に追われる毎日。ハッチの望みは家族水入らずの旅行に出かけたかっただけ。やっと選んだ場所はプルマビルという架空の町のウォーターパーク。そこは、ハッチが小さいときに訪れた思い出の場所でもあったのである。ハワイアンシャツに短パン姿で、ひとときの休憩を楽しむのもつかのま、ハッチが訪れる場所には常にとんでもない悪人が潜んでいるのだった。

この平凡な叔父さんキャラをとんでもない銃撃戦に巻き込ませ、それも、素手でも戦えるアクションスターに盛り上げた製作者が、あのキアヌ・リーブスを『ジョン・ウィック』シリーズでヒーローの座に君臨させたチーム。脚本家デレク・コルスタッドの脚本ではじまった『ジョン・ウィック』は復讐に燃えたぎる男のネオ・ノワール。殺し屋を引退したジョン・ウィック対、世界中の闇を牛耳る殺し屋たちとのアクション満載の映画は、七転び八起き的なヒーローをキアヌが演じただけでなく、根本は、妻を失った憂いのあるヒーローと飼い犬の孤独を描き、興行的にも大ヒット。彼の生きた世界はスケールが大きく、殺し屋同士のルールや裏社会の通貨 (金貨コイン) 、上下関係など、忠孝仁義なアンダーグラウンド社会。

このハッチはもちろん、同じフォーミュラではないが、より楽しいコメディタッチで、ハッチの馬力の根源は家族愛。叔父さんキャラが悪人たちから家族を守るというファミリー・アクション映画になっていて、たまには、大きくなった子供たちと家族全員で観に行ってみるのもいいかもしれないと思わせる映画である。
この映画のために、相当なトレーニングをこなしたボブ・オデンカークの姿も続編ではより締まってみえるのは気のせいではない。ボブ・オデンカークは「ベタ・コール・ソウル」シリーズの後半で、心臓発作を起こして入院した経験があり、日々のトレーニングが自らを生き返らせてくれたことを感謝しているとエスクァイア誌で語っていて、筋トレと運動が中年以降の私たちに不可欠であることを納得させてくれる。
『ブレット・トレイン』(2022) 、『フォールガイ』(2024) で知られる監督デヴィッド・リーチもプロデューサーに名を連ねる『 Mr. ノーバディ2』。常にアクション映画に笑いをもたらしてくれるスタントチームがこの映画のスタントと振り付けを極め、セカンドユニットを担当したのが、グレッグ・レメンター。一作目からスタントマスターとしてボブを訓練し、ハッチという半生な、素人男性が戦っているような動きのフローを振り付け、ある意味、ジャッキー・チェン映画のようなギャグがあってスカッとする映画である。

監督は、一作目のイリア・ナイシュラーに代わって、監督ティモ・ジャヤントというホラー映画『V/H/S ネクストレベル』(2013)、『V/H/S 94』(2021) シリーズで知られるインドネシア出身の監督が起用され、一作毎に独立したビジョンを投入。この映画がお茶の間でも定着していくであろう理由は懐かしい往年の俳優起用にもある。一作目と同じく、ハッチの妻を演じるのが、あの『グラディエイター』シリーズのルシラ役だった高貴な雰囲気のあるコニー・ニールセン。主人公ハッチの父親を演じるのが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのドク役で一世風靡した現在87歳現役のクリストファー・ロイド。続編で、密輸ルートを牛耳る巨悪組織の長を演じるのが。相変わらずクールな女優シャロン・ストーン。バケーション先でも、地元保安官に目をつけられるハッチの行く末はいかに!?劇場で是非、楽しんでもらいたいエンタメ作品である。
文 / 宮国訪香子

地味で平凡な“何者でもない男”ハッチ・マンセルは、ロシアン・マフィアとの壮絶な決闘から4年、焼失させた3,000万ドルを肩代わりした組織への借金返済のため、休日返上昼夜を問わず任務を請け負っていた。一方で家庭は崩壊寸前。妻ベッカや2人の子供たちとの関係修復を兼ね、一家でバカンスを計画する。しかし旅先の寂れた何でもないリゾート地は、裏で巨悪組織を率い、薬物と汚職にまみれた警官を支配する“一切容赦のない女”レンディーナの密輸ルートだった。地元保安官とのトラブルが、たちまち巨悪組織とのド派手な全面戦争へとエスカレートしていく。
監督:ティモ・ジャヤント
出演:ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、ジョン・オーティス、RZA、コリン・ハンクス、クリストファー・ロイド、シャロン・ストーン
配給:東宝東和
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2025年10月24日(金) 全国公開
公式サイト mr-nobody2