Oct 23, 2025 column

ブラピでもない、トムでもない 『Mr. ノーバディ2』のボブが今なぜ、受けるのか (vol.76)

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『ジョン・ウィック』の製作チームが、コロナ後の映画界を元気にさせた意外なアクション映画『Mr. ノーバディ』。家にこもって大ヒット配信シリーズ「ブレイキング・バッド」「ベター・コール・ソウル」を立て続けに見ていた人なら、ああ、この人知ってるけど、アクションスターだったの?と主演のボブ・オデンカークに驚いたはず。ブラピより一歳上、トムと同い年のボブは実はベテランのスケッチコメディ脚本家兼俳優。今年はブロードウェイミュージカル初出演、映画は続編『Mr. ノーバディ2』とトロント国際映画祭で上映されたばかりの『NORMAL(原題)』が北米中心に話題。45歳からめきめきとキャリアを躍進させ、50歳半ばでアクションスターとなったボブ・オデンカークの遍歴をこのコラムでもご紹介

配信の歴史を変えた「ブレイキング・バッド」

ロッテントマトメーター96% ( 2025.10.21現在) で、配信シリーズの歴史を変えたとも言われる犯罪ドラマシリーズ「ブレイキング・バッド」(2008-2013) 。シリーズ5までつづき、主人公ウォルターが泥沼のドラッグカルテルの頂点に上りつめていくシリーズはバイオレントさながら、元科学教師のウォルターと生徒の葛藤を浮き彫りにし、大ヒットした。

ボブ・オデンカークが演じていたのは脇役。主人公ウォルターが窮地に陥ると助けを差し伸べる弁護士ソウル・グッドマン。どんな難題も解決できる才能に長けた不思議な弁護士は、名前がまさに魂 (ソウル) の良い男 (グッドマン) と聞こえがよく、やさしい眼差しの救世主のような存在感で、彼ならなんとかしてくれるというお助けマンのイメージを定着させ、シリーズの重要人物として最後まで観客の心を捕まえて話さなかった。

そのヒットを受けて、「ブレイキング・バッド」のスピンオフ・シリーズがいくつか製作されたなかで、またもや、ロングランとなったのがシリーズ「ベタ・コール・ソウル」(2015-2022) 。6シリーズのロングランとなり、「ブレイキング・バッド」では語られなかった主人公ソウルの素性、家族関係をあきらかにし、なぜ、真面目な人間が犯罪人の弁護士になっていったかを切り口に、新たに独立したシリーズとして認識され、ロッテントマトメーター98% ( 2025.10.21現在)を獲得するほどの大反響。

シーズン中、エミー賞53ノミネーションと高く評価され、アメリカでは確実にポップカルチャー・アイコンとして君臨しているのがボブ叔父さんなのである。45歳から14年間もこのソウル・グッドマンという同じキャラを演じてきたボブ・オデンカークは、実は他にもいろいろな役に挑戦してきた。ボブ・オデンカークのキャリアは80年代後半のサタデー・ナイト・ライブから始まっている。そのあと『ウェインズ・ワールド2』(1993)、「ベン・スティラー・ショー」(1992-1993)「となりのサインフェルド」(1996)などあらゆるコメディ界の著名タレントと仕事をし、役者としてだけでなく、声優、脚本家、監督、プロデューサーと仕事内容も多岐にわたる。ボブが常にグッドマンであるというイメージは観客を魅了し続け、なんでもない叔父さんをアクションスターにしたらと、ビッグスクリーンに起用したのが『ジョン・ウィック』シリーズのクリエイターたちである。