「礼に始まり、礼に終わる!」ぶっとび「センセイ」と不屈のティーンエイジャー、そして革命家の女性たち
ベニチオ・デル・トロが演じる「センセイ」は娘の柔道の先生のこと。母親がかつて組織のヒーローだったと信じて育ったボブの娘を見守る泰然自若な存在。武道における人格形成を重視し、「礼に始まり、礼に終わる」を重んじる「センセイ」は、この映画のローラーコースターのような展開の中でも常に平常心を失わない。しかし、どこかコミカルでもある謎多き行動は、映画の中でも、極上のスパイスとして頼りになる。今年は大ヒット映画に出番が多いベニチオ・デル・トロ。『インヒアレント・ヴァイス』に続いて2度目のPTA映画出演となる。このコラムでも紹介したウェス・アンダーソン監督『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』の演技も必見のデル・トロは今年のアカデミー賞前哨戦でも話題となるに違いない。

ディカプリオの娘役を演じる女優チェイス・インフィニティは、これまで数多くの俳優の娘役を演じてきた。アップルTV「Presumed Innocense」(2024) シリーズのジェイク・ギレンホールの娘役や、現在は、「ハンドメイズ・テイル 侍女の物語」シリーズの続編「The Testaments (原題)」で、主人公ジューンを演じるエリザベス・モスの娘役に抜擢されるなど、前途有望な若手女優。彼女のスクリーン上の演技は、予告編などでは伝わらない個性的な魅力に溢れていて、芝居がとにかくうまい。PTAも彼女が見つからなければ、この映画は作れなかったというほどにアクションも得意で、元キック・ボクシングトレーナーで、マーシャルアーツに長けたインフィニティは、ボブの娘ウィラ役で「センセイ」に学び、柔道着姿にフリルのスカートで暴れ回る様子は、大物俳優の間でもブレることがない。

ボブの妻で、一人娘のウィラを産んですぐに姿を消した派手で過激な革命女子を演じたのが、シンガーのタヤナ・テイラー。その歌声を聞いたことがある人なら、そのファッションと過激な風貌でなるほどのキャスティングだと納得するに違いない。天才ファレル・ウィリアムスに見染められ、16歳でビヨンセの振付師となるなど、彼女のアーティストとしての活躍ぶりは有名。女優としてもインディペンデント映画『サウザンド・アンド・ワン』(2023)で母親役を演じて高く評価されて、女優としてのカリスマが、この映画でもギラギラしている。

すでにオスカーの話題も上がっているこの映画。ロサンゼルスのプレミアで映画を見たスティーブン・スピルバーグ監督がこの映画を絶賛したという評価を受けて、タヤナ・テイラーは「スピルバーグ監督が私のことを知ってるってことよね!?」とザ・ガーディアン誌でコメントしていて、意外と無邪気な一面も披露していた。
文 / 宮国訪香子

冴えない革命家のボブのひとり娘が何者かに狙われ、次から次へと迫る刺客たちとの戦いを描く怒濤のチェイス・エンターテインメント。
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ、ウッド・ハリス、アラナ・ヘイム
配給:ワーナー・ブラザース映画
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2025年10月3日(金) 全国劇場公開
公式サイト obaa-movie