Sep 12, 2025 column

ウェス・アンダーソン作品愛がさらにパワーアップ! 『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』のポリティカルな一面 (vol.72)

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アンダーソン監督作品を支える役者たち

今年58歳の俳優ベニチオ・デル・トロが演じるザ・ザ・コルダの存在感は抜群。アンダーソン作品では、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊』(2021) で変人アーティスト/ 犯罪者役で助演していたが、今回は威厳のある大物実業家という主役。デル・トロの演技は怖そうに見えながらも、どこか哀愁があり、ズタズタの傷を負い、死にかけながらも目的に一直線に突進する姿はコミカルでありながら、富豪としてのオーラもみなぎっている。

ザ・ザ・コルダの最後の希望は疎遠だった娘。全てを熟知していたはずの大物実業家だったが、死の予感を心で感じたことで新たな人生が動き出す。彼は修道院に送った一人娘リーズル (息子は山ほどいる) を自らの事業の後継者にする。リーズルは20歳の修道女の訓練生。このリーズルを演じたのが女優ミア・スレアプレトン。オーディションでは全く違う脚本を渡され、配役が決まるまで自らが演じる役について知らされなかったというミア。ごく自然な演技と監督との会話の中でこの役を勝ち取った実力のある若手女優は、ベテラン女優ケイト・ウィンスレットの実娘。この役を作り上げるにあたってアンダーソン監督は、マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガーの2人が監督・製作した『黒水仙』(1947) のヒマラヤ山麓の修道女を参考にしたそうだが、映画の中でのミアの存在感はデル・トロにも匹敵していてシーンが進むごとにメイクも色調が鮮やかになっていき、かわいらしく目が離せない。

アカデミー賞候補作『JUNO/ジュノ』(2007) などで知られる、カナダ出身の男優マイケル・セラも、ミアとおなじくアンダーソン映画初参加。彼が演じたビョルン役は、物語の軸を担う大きな役どころ。リーズルの家庭教師として雇われた昆虫博士というところで、控えめでいながら、時には知識をひけらかすおしゃれなノルウェー人ビョルン。実は別の使命も遂行しているという謎の多い面もミステリアスで魅力がある。

しかしこの3人が、ザ・ザ・コルダ一行となってケミストリーを起こしていく。その他のユニークな登場人物は映画を見てのお楽しみ。いつもの顔ぶれがあらたな登場人物となって、ザ・ザ・コルダの大計画を阻止しながら、壮大なクライマックスが観客を待ち受けている。

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』

舞台は1950年代、“現代の大独立国フェニキア”。6度の暗殺未遂から生き延びた大富豪ザ・ザ・コルダは、フェニキア全域に及ぶ陸海 3つのインフラを整備する大規模プロジェクト「フェニキア計画」の実現を目指していた。そんな中、とある妨害によって赤字が拡大、財政難に陥り、計画が脅かされることに。ザ・ザは離れて暮らす修道女見習いの一人娘リーズルを後継者に指名し、彼女を連れて旅に出る。目的は資金調達と計画推進、そしてリーズルの母の死の真相を追うこと。次々と現れる暗殺者や裏切り者をかわしながら、出資者たちと駆け引きを重ねるうちに、冷え切った父娘関係が変わっていく。

監督:ウェス・アンダーソン

出演:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ、リズ・アーメッド、トム・ハンクス、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、リチャード・アイオアディ、ジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ルパート・フレンド、ホープ・デイビス

配給:PARCO ユニバーサル映画  

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2025年9月19日(金) TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイント他 全国ロードショー

公式サイト zsazsacorda-film

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。