Jul 30, 2025 column

マーベル家族愛がフランチャイズを再起動 『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』 (vol.69)

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なぜ劇場未公開に終わったのか。ロジャー・コーマン未公開作『The Fantastic Four』

映画通ならば、知らない人はいないB級映画の帝王ロジャー・コーマンは去年5月9日にサンタモニカの自宅で98歳で亡くなった。彼が育てたとされる監督はフランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシ、そしてジェームズ・キャメロンにいたるまで、低予算特殊効果映画を数多く手がけたプロデューサーである。制作総指揮を務めた『ピラニア』(1978) ほか、『女囚大脱走』(1956) 、『金星人地球を征服』(1994) では監督も手がけ、のちに、ジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』(1991) にFBI捜査官で出演したりと、ハリウッド映画界の底辺を支えてきた帝王は業界でもアイコンとして愛され続けるプロデューサーである。

ロジャー・コーマンが『ファンタスティック・フォー』にかかわったのはほぼアクシデント。独コンスタンティン・スタジオの友人プロデューサーが、「ファンタスティック・フォー」の映画化権が切れる前に、低予算でVFX映画ができないかとコーマンのコンコルド/ニューホライゾン社に問い合わせてきたことがきっかけ。常に新しいことに挑むロジャー・コーマンは1ミリオンドル (日本円で約1.5億円) の予算 (当時のVFXは40ミリオンドルが通常) で撮影を決行。撮影セットで取材した記者クリス・ゴアによると、当時のマーベル フランチャイズに関するファンの期待は低く、ワーナー・ブラザースのスパイダーマンのテレビシリーズ やインクレディブル・ハルクなどのテレビシリーズが放映されていた70、80年代はマーベルの暗黒時代だったそうだ。なぜ、映画が劇場公開にいたらなかったかは2015年に作られた「Doomed!」(ファンタスティック4の悪役Mr. Doom にかけて、運の尽きたプロダクションの様子が、主演した俳優や関係者のインタビューで綴られるドキュメンタリー) で事細かく説明されているが、映画は完成したにもかかわらず、マーベルが低予算映画として『ファンタスティック・フォー』を世に出すことを懸念し、権利を持っていた独プロダクションが、ロジャー・コーマン版映画を劇場公開しない条件をのんで、別の契約を結んだことが原因なのだそうだ。

しかし、日本語字幕なしだが、YouTubeで映画全編、そしてドキュメンタリーが見ることができるのも、いかに米ファンがこの低予算マーベル映画を楽しんでいるかを表している。今ではハルク役で有名な俳優マーク・ラファロもオーディションに参加していたり、公の場では予算のないプロダクションを蔑んだスタン・リーも、セットを何度も訪れていたなど、当時の映画『The Fantastic Four』に情熱をかけた関係者の証言は、ハリウッドの浮き沈みの定めを物語っている。最後は資金も底をつき、それでも作曲家チームが自らお金を出してオーケストラを雇って素晴らしい音楽を収録し、映画宣伝パブリシティを主演俳優自らがマーベルコミックのコンベンションを訪れてボランティアで行なったなど、自ら関わった作品に誇りを持っていた関係者は映画製作の情熱とクリエイティビティに溢れていて、ネット上でマーベル映画ファンを楽しませ続けている。

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』

宇宙ミッション中の事故で特殊能力を得た4人のヒーロー・チームは、その力と正義感で人々を救い、“ファンタスティック4”と呼ばれている。世界中で愛され、強い絆で結ばれた彼ら“家族”には、間もなく“新たな命” も加わろうとしていた。しかし、チームリーダーで天才科学者リードのある行動がきっかけで、惑星を食い尽くす規格外の敵”宇宙神ギャラクタス”の脅威が地球に迫る。滅亡へのカウントダウンが進む中、一人の人間としての葛藤を抱えながらも、彼らはヒーローとして立ち向かう。いま、全人類の運命は、この4人に託された──。

監督:マット・シャクマン

出演:ペドロ・パスカル、ヴァネッサ・カービー、ジョセフ・クイン、エボン・モス=バクラック

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.

公開中

公式サイト marvel.disney.co.jp/movie/fantastic4