May 02, 2025 column

テクノロジー依存の反射鏡 Netflix「ブラック・ミラー シーズン7」 (vol.66)

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スティーブン・スピルバーグ、ジョン・ランディスなどが監督した映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983) は、もともとCBS系テレビ番組「トワイライト・ゾーン」(1959〜1965)が基になり、当時の映画監督たちも注目したミニシリーズ。Netflix「ブラック・ミラー」は現代の「トワイライト・ゾーン」。嘘のようで、本当にあるかもしれない不思議な物語の数々は、今回で7シリーズを迎えるほどの人気。それぞれのエピソードは独立していて、1回で見終われるアンソロジー形式なので、短編映画を見るような感覚。ハイテク化する近未来を予言するようなファンタジー、カフカエスクなミステリー/コメディシリーズなので、このコラムでは特に話題の数作品をご紹介。

クリエイターは元ゲーム批評家

「ブラック・ミラー」シリーズのタイトルが意味するのは、スマートフォンやテレビがオンになっていない時の“黒く冷たいスクリーン”のこと。人気ドラマシリーズ「メディア王 〜華麗なる一族〜」(2018~2023) のクリエイター、ジェシー・アームストロングが脚本を手掛けたシーズン1の「The Entire History of You(人生の軌跡のすべて)」は、ある男性が体内にハイテクなチップを埋め込まれ、自らの履歴をいつでもプレイバックできる便利な日常を手にいれたところから始まる。しかし、あるパーティで妻の不倫疑惑が浮上。不倫相手といつ、どこで出会ったのか。記憶装置を何度も巻き戻すことで、より嫉妬心を昂らせ、主人公が情緒不安定に陥っていくスリリングな内容は瞬く間に視聴者を釘づけにした。英国チャンネル4で放送されていた本作は、シーズン3からNetflixでグローバルに配信を始め、現在シーズン1〜7まで計33エピソードが楽しめる。

制作にクレジットされているクリエイター、チャーリー・ブルッカーは、英国でゲームの批評家やジャーナリストとして活動していた。デッドライン誌のインタビューによると彼自身、かなりのゲーム好きで、Nintendo Switchなどでプレイできるポーカーゲーム、バラトロほか、数多くの中毒症状をおこしかねないゲームにはまっているそうだ。彼の知識が豊富なのはゲームだけではない。過去のTVシリーズ「トワイライト・ゾーン」はもちろん、映画『トゥルーマン・ショー』(1998) のようなデジタルワールドを描いた初期の傑作や、ドキュメンタリー映画も数多く見ているという。

シーズン5のエピソード2「Smithereens (待つ男) 」では、Facebookのようなソーシャルメディアにアクセスする日常が、人生を狂わせるミスを招いた悔しさに翻弄される男の話や、昨年夏放映したシーズン6のエピソード1「Joan Is Awful (ジョーンはひどい人)」は平凡な女性の最悪な1日がその日のうちにアップロードされ、世の中から総スカンをくらうという、テクノロジーに依存する我々の日常の落とし穴が浮き彫りになっていた。

前者は男優アンドリュー・スコット、後者は女優サルマ・ハエックが主演するなど、シーズンが進むごとに、プロダクションバリューが上がっている。「Joan Is Awful」は、大企業の人事部で働く、ごく普通の会社員ジョーンが主人公。人事令で、同僚を解雇したその日、ジョーンはセラピストの前で、彼氏の不満をこぼし、昔つきあっていた男と浮気する。しかし、その晩、彼女のとんでもない行動全てが、サルマ・ハエックが演じるジョーンによってドラマ化され、ストリームベリーというサービスで配信される。リアリティ番組のようにドラマ化された彼女の1日を配信したストリームベリー社を訴訟するジョーンだったが、視聴契約した際に、自らの私生活をドラマとして配信されることに承諾していたことが発覚。納得のいかないジョーンはセルマを標的にするが、ドラマのサルマは本人でなくデジタルアバター。八方塞がりのジョーンはアバターを使ってサルマ・ハエックを激怒させることに成功する。憤慨してジョーンの家に抗議しにやってくるサルマはジョーンと一致団結。ストリームベリー社の核となるコンピューターの壊滅を実行するべく、戦いを挑むのである。

AIがクリエイティブアーツの脅威になるとき、アーティストは何をどうコントロールできるのか? 一般人、そしてセレブリティ共々、契約書があまりにも巧妙に書かれていることなど、弁護士を通じても自らの権利が守れなくなる危機を描いていて考えさせられる。作品の中の配信サービス会社ストリームベリーは大胆にもNetflixという設定。一昨年、全米映画俳優組合(SAG AFTRA)、全米脚本家組合(WGA)のストライキの争点となっていた問題をタイムリーにテーマとして扱って、センセーショナルであった。