Mar 07, 2025 column

勇敢、かつ一筋の希望が託された オスカー長編ドキュメンタリー受賞作品『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』(vol.63)

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長編も短編もサイレント映画×アニメーションの饗宴受賞!

今年のアニメーション部門では、長編、短編とも小国のアニメーションが高く評価され、ラトビア共和国の『Flow』が、ドリームワークススタジオの米大ヒット作『野生の島のロズ』を抜いて長編アニメーション賞を受賞。『Flow』は国際長編映画賞にもノミネートされていたほどアカデミー協会員の関心を集め、自然の脅威を生々しく描き、洪水で人々が滅びた世界で、残された動物たちがどう生きのびていくかを描いた映画。

短編アニメーション部門で受賞したのが、東京アニメアワードフェスティバルにも出品されたイラン映画『イトスギの影の中で』。この映画もサイレント映画で、アニメーションの動画だけで綴られる、想像を絶する深い内容が描かれるアニメ作品。

物語は過去に経験した戦争でPTSDを患っている元船長のストレス障害に耐えかねた娘が家出を決意したその朝、浜辺に一頭の鯨がうちあげられる。海に戻れない鯨を助けようと必死になる娘。一度は手伝おうと試みるものの、父親の障害が再発して船に火をつける。娘があきらめようとしたその時、いきなり、大きな鯨が海にひきずりこまれていく。海の底には、全ての力を振り切って鯨を助けようと、もがく父の姿があった。イランはアメリカと敵対している国で、ビザがぎりぎりまで降りなかったと、授賞3時間前にロサンゼルスに到着した監督夫婦はとまどいと喜びを隠せなかった。

the 97th Oscars®

短編アニメーションでノミネートされていた『あめだま』も、CGなのにストップアニメーションのような映像で、アニメーションの質に関しては全ノミネート作品と比べても、はるかにプロの仕上がり。原作は2020年にアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞した韓国絵本作家のペク・ヒナの作品。物語の主人公は、父一人子一人で暮らしていて、友達がいないドンドン。色とりどりの“あめだま”を食べると家具や老いた飼い犬が喋り出すというファンタジーに溢れているだけでなく、その絵本の翻訳が長谷川義史さんの関西弁という最高のマッチングで日本語翻訳された絵本。その絵本に惚れ込んで西尾大介監督がアニメ化した胸キュンな短編アニメーション映画。

アカデミー賞前のOscar Nominee Spotlightsでは、東映アニメーションのプロデューサー、鷲尾天氏が挨拶し、「東映アニメ、トー・エー・ア・ニ・メ!みなさん知っていますか?」と場内をほのぼのさせるスピーチで会場を湧かせていた。

the 97th Oscars®

アカデミー映画博物館には、それぞれ長編、短編映画のブースが設けられ、ハリウッドのアニメーターほか子供連れも多く見られ、それぞれノミネートされたアニメーション作品の展示を楽しむ祭典となり、毎年恒例のアカデミー賞が次世代の映像作家を育てる重要な役割を果たしている。

文・写真 / 宮国訪香子

作品情報
映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』

ヨルダン川西岸地区のマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったパレスチナ人の青年バゼルは、イスラエル軍の占領が進み、村人たちの家々が壊されていく故郷の様子を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト、ユーバールが訪れる。非人道的で暴力的な自国政府の行いに心を痛めていた彼は、バゼルの活動に協力しようと、危険を冒してこの村にやってきたのだった。同じ想いで行動を共にし、少しずつ互いの境遇や気持ちを語り合ううちに、同じ年齢である2人の間には思いがけず友情が芽生えていく。しかしその間にも、軍の破壊行為は過激さを増し、彼らがカメラに収める映像にも、徐々に痛ましい犠牲者の姿が増えていく。

監督:バゼル・エイドラ、ユヴァル・アブラハム、ハムダーン・バラール、ラケル・ゾール

配給:トランスフォーマー

©2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

公開中

公式サイト transformer.co.jp/m/nootherland/

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。