Mar 07, 2025 column

勇敢、かつ一筋の希望が託された オスカー長編ドキュメンタリー受賞作品『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』(vol.63)

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2年連続クラシック音楽に焦点が当てられた短編ドキュメンタリー受賞作品

昨年の受賞作品は『ラスト・リペア・ショップ』。『野生の島のロズ』で今年のアカデミー作曲賞にノミネートされた作曲家クリス・バワーズがプロデューサーとして関わっている。オスカーの舞台挨拶で、「あのジョン・ウィリアムズも公立高校で音楽を学び、私自身も公立高校で音楽を学んだ」とスピーチするほどに、米公立校の音楽教育がいかに重要で、その若き音楽家を支える楽器修理工の短編映画は感動あふれる作品。受賞後の現在でも、ロサンゼルスタイムズのYouTubeで視聴することができる。

今年も音楽によって結束を固めるというテーマは大人気。ヴァラエティ誌のピーター・デブルージは、ニューヨークタイムズがプロデュースし、山崎エマさんが監督した作品『Instruments of a Beating Heart』は競合した他の作品に比べるとソフトな内容だが、主人公の小学生が、時には涙を流しながら、うまく演奏できないことへのくやしさを乗り越えて競い合い、集団の中で大人になっていく少女の姿は、投票する人の心を掴んだに違いないと批評。

山崎エマさんはもともと編集の出身で、前記した伊藤詩織さんのドキュメンタリーの編集者でもある。IDA(インターナショナル・ドキュメンタリー・アソシエーション) ドキュメンタリー賞では『Black Box Diaries』が最優秀編集賞でノミネート。自身が監督した『Instruments of a Beating Heart』は短編ドキュメンタリー賞を受賞している。

the 97th Oscars®

その他の短編ドキュメンタリー作品は社会を大きく見据えた作品が多く、米警察の暴力と人種差別を扱った作品や、米高校銃乱射事件を生き延びた生徒のその後を描く、心の傷を題材にした短編、死刑を宣告された人の最後の数日を通じ、死刑とはと司法システム下の人権を問う作品など重い題材が多かった。受賞したのは、ニューヨーク・フィルハーモニックで女性として初めて正式団員として起用されたコントラバス奏者オリン・ブライエンの一生に焦点を当てた短編。注目を浴びることを拒み、ハリウッド俳優として活躍した両親の華やかな表舞台を嫌って、オーケストラの角で低音域を演奏する一生を選んだ女性の、幸せの極意を描いたドキュメンタリー作品だった。

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