賞レースの注目の的、新鋭女優マイキー・マイディソン
今年は初アカデミー賞ノミネートとなった俳優が多数。『リアル・ペイン〜心の旅〜』のキーラン・カルキン、『教皇選挙』のイザベラ・ロッセリーニ、『ブルータリスト』のガイ・ピアース、『エミリア・ペレス』でオスカー助演女優賞確実とされているゾーイ・サルダナ。同映画の主演女優カルラ・ソフィア・ガスコンも初ノミネートだが、過去に差別発言をツィートしたことが発覚し、オスカー授賞式に出席するのかも定かではない。『ウィキッド ふたりの魔女』のアリアナ・グランデ、『アプレンティス：ドナルド・トランプの創り方』のセバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、ブラジル映画で、作品賞、国際長編映画賞にもノミネートされている『アイム・スティル・ヒア』の女優フェルナンダ・トーレスも初ノミネート。主演女優部門はオスカー受賞確実とされている『サブスタンス』のデミ・ムーアも初ノミネート。先日の全米俳優組合賞（SAG) では、組合のサポートを一心に浴びて主演女優賞を受賞。ベテラン女優としてキャリアのアップダウンも経験した62歳のデミ・ムーアは言葉で表せないほどの感動スピーチで場を沸かせていた。同賞で主演男優賞を受賞したティモシー・シャラメ主演の『名もなき者／A COMPLETE UNKNOWN』ですばらしい歌声を披露した女優モニカ・バルバロもオスカー初ノミネート。『ANORA アノーラ』の主演女優マイキー・マディソンと助演男優のユーリー・ボリソフも初ノミネートで、マイキー・マディソンはノミネートされた俳優の中で一番若い。
ハリウッドのシンデレラ・ストーリーはこれまであらゆる時代を象徴してきた。大ヒットした『プリティ・ウーマン』(1990) で、女優ジュリア・ロバーツが一躍スターダムに登ったのが、彼女が23歳のとき。このアンチ・シンデレラの物語『ANORA アノーラ』で一斉風靡した女優マイキー・マディソンは現在25歳。先日行われた英国アカデミー賞（BAFTA) でベテラン、デミ・ムーアを抜いて、主演女優賞まで受賞し、オスカーの主演女優賞に最年少で堂々ノミネートされているのである。
彼女が映画で注目されはじめたのが、クエンティン・タランティーノ監督の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019) 。彼女がいかに準備周到だったか、当時のオーディションのエピソードは有名。映画は、カルト集団、チャールズ・マンソンによる殺人事件をヒントに「もしその殺人事件が起こらなかったら !? 」 という斬新な発想で描かれていく。マイキーは、オーディションを受けるにあたって、チャールズ・マンソン・ファミリーについて入念に調査し、演じる役をイラストで描いただけでなく、その裏に詩をささげて、オーディション時にタランティーノ監督に手渡したそうだ。見事、19歳でタランティーノの映画に出演するという幸運を手にいれたとTVトークショーで語る様子は、どこかシャイ。以来、マイキーは、ホラー・フランチャイズ『スクリーム』(2022) にも出演。映画では、デビッド・アークウェット扮した警官を殺す役で、その存在感抜群な演技が『ANORA アノーラ』のベイカー監督とプロデューサーのサマンサ・クワンの目に止まり、『ANORA アノーラ』の主役に抜擢されたのだそうだ。その時点で脚本はできておらず、ベイカー監督は彼女をイメージして脚本を仕上げたそうだ。製作チームのサポートも厚く、身体を見せる役でありながら、演技もとても自然。マイキー・マディソンはストリップバーで働いたことのある女性と実際に話をし、ラップダンスや役作りを研究。スタントシーンも自らおこなうほどの努力家で、『ANORA アノーラ』の演技は主演デビューとは思えないほどにカリスマ性に溢れている。映画のラストシーンはこの作品で最も切なく、スター誕生の理由をスクリーンで確かめてほしい。
文 / 宮国訪香子
ニューヨークでストリップダンサーとして働くアノーラは、ある日ロシアの新興財閥の息子、イヴァンと出会う。“契約彼女”から始まった2人は瞬く間に結婚、幸せの絶頂へ。しかし息子の結婚に反対するイヴァンの両親がNYへ乗り込んできて大騒動へと発展する。
監督・脚本、編集：ショーン・ベイカー
出演：マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーラ・ボリゾフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン
配給：ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
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