Oct 12, 2024 column

第54回:『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』待望の続編に米映画ファン困惑!対 視聴者大絶賛のHBOオリジナルシリーズ「THE PENGUIN-ザ・ペンギン-」の話題

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ミュージカル楽曲はアーサーの幼少時代を写す鏡だったはず‥‥

注:以下、本作のネタバレあり

まず、観客の不満を上げると、「見たかったのはジョーカーの映画であって、ミュージカルじゃない。」そう、この続編について前情報なしで観た人は、この映画の主要な場面がミュージカルとなっている点に驚くはず。行き過ぎた派手さと明るすぎる歌曲でアーサーとリーの妄想の中の恋を盛り上げようとするのだが、物語とつながらずに空回り。しまいにはリーがハーレー・クインとなり、その傲慢さを嫌うまでに至った観客は嘆き、その悔しさと怒りの鉄拳をSNSで露わにしている。

しかし、「Rotten Tomatoes」の観客レビューの中には、主人公の暗さと妄想的な部分がとても気に入ったという人もおり、レビュアーのErnest M氏は「皆、この映画の意図するポイントをミスってる。騒乱や革命をこの映画に期待しているようだが、精神に異常をきたした主人公と、同じ妄想に翻弄されて主人公が苦しんでいる点は前作と同じ。ミュージカルナンバーはその妄想をより拡大させているようなものであり、レディー・ガガも同じだ。私は映画館の中で美しく創造されたバットマンの世界に浸ることができて満足な時間を過ごした。過小評価されていることは確かだが、最もハイクォリティの映画館で観ることをおすすめする。」とある。

Many have missed the point here. People seem to have been expecting an all-out call for mayhem and revolution from this film, while instead it sticks to the reality of the mentally disturbed main character and his continued delusions of the same kind he suffered in the first movie. The musical numbers are like a growing extension of the glamorous, big show delusions he had in the first movie and Gaga is the same. I thoroughly enjoyed my time in the theater watching these beautifully crafted images of somewhere in Batman world. Underrated for sure, worth checking out in the highest quality theater available.(Oct 8, 2024)

確かに映画のゴッサムシティはどこから見ても完璧なバットマン・ユニバースだし、主人公アーサーほか、助演俳優たちも実力派。そして、このミュージカルシーンには相当な情熱と労力が注ぎ込まれている。レディー・ガガとホアキンは楽曲をリップシンクで歌ったのではなく、映画のセットで生演奏で収録したそうで、歌も演技も相当練習を重ねたに違いない。ラスベガスで行われるレディー・ガガのライブ・ジャズ・ショーに一度行ってみたかった私のような観客は、映画とは全く別の観点で、しかも映画1本分の価格でレディー・ガガ・ショーを鑑賞できるというポジティブな見方も出来る。ミュージカル楽曲はアーサーの幼少時代を写す鏡で、楽天的なミュージカル楽曲は、前作でアーサーが子供時代に母と愛したハリウッド黄金時代のミュージカルナンバーを反映する内容。

たとえば、1966年にブロードウェイで初演された「スイート・チャリティー」の楽曲「If My Friends Could See Me Now」は、愛されたかった女の子の物語で、楽曲の明るさと比べて、内容は悲恋をうながし、スターに憧れて捨てられる女の子の心を描いたミュージカルナンバー。製作陣が意図した楽曲の数々を知っていれば内容も映画の構成から逸れてないことは事実。ただレディー・ガガが堂々としていて、メンタルヘルスを抱えている2人には見えず、とくに、深刻な精神病を患う主人公アーサーの物語にミュージカルナンバーは水と油。そのデュエットシーンが続くあたりから、ジョーカーは観客にとってもカリスマを失っていく。やがて自らが罪人であり、二重人格ではないことを裁判で告白。ジョーカーの仮面をはずした人間に魅力を感じないハーレイ・クインはアーサーを拒絶。アーサーに救いの手は差し伸べられるのか、いとも悲しい物語となっていくのである。

9月初旬のヴェネツィア国際映画祭で12分間に及ぶ長いスタンディング・オベーションで迎えられたホアキンとレディー・ガガ。プレミアに豪華なディオール・クチュールのドレスとレースのヘッドピースで登場したレディー・ガガは「この映画はミュージカルじゃない」と主張。「主要な台詞は脚本の中にあり、前作ですでにホアキンの演技がこの映画のハードルをより高く設定しました。社会から理解されなかった人たちのことを描いた作品からは多くのことを学ぶことができるし、私自身も今まで気づかなかったことをこの作品から学びました。」とインタビューで答えていた。