哀愁漂うバートンワールドのキャラクターたち
これまでのティム・バートン映画をふりかえると、ドイツ表現主義のデザインや映画に影響された作品や、米特撮映画監督レイ・ハリーハウゼン、初期のストップモーション・アニメーションの刺激を得た作品が多い。ジョニー・デップ主演『シザーハンズ』(1990)、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』など、そのダークで粋なゴシック調の世界観はドイツ映画『カリガリ博士』(1919)や『メトロポリス』(1926)などのドラマチックに歪んだ背景やダークな照明などを思い起こさせる。
とくに、木々や動物などが擬人化され、独特の個性をもったスピリットがバートンワールドの特徴でもある。そもそも、ティム・バートン監督の少年時代は暗かったという。ベースボールプレイヤーだった父が息子も野球選手にしたかったが、バートン少年は親の期待にそえず、居場所のない幼少時代を送っていたのだそうだ。そんなティム・バートンが夢中になったのが、『フランケンシュタイン』(1931)などのクラシックなモノクロホラー映画。主人公たちが人と違うだけで恐ろしい人間と勘違いされて攻撃されることに、衝撃を受ける。さらには、絵を描くことに才能を発揮しながらも、世の中で求められていた『バンビ』(1942)や『ピーターパン』(1924)の様なカラフルなディズニー映画のテイストをティム・バートンは好まず、アニメーションではなく、伝統的な絵画を学ぶうちに規格に当てはまらない自らのスタイルを確立。
落書きのようにぐるぐる包帯を巻かれたマミー(ミイラ)・ボーイや、 製作・原案・キャラクター創造(デザイン)を担当した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のジャックにいたるまでの彼のメランコリーな主人公たちは、たまらなく哀愁にあふれている。
短編映画『ヴィンセント』(1982)や『フランケンウィニー』(1984)(2012年の長編アニメと同名)を監督したあと、『ピーウィーの大冒険』(1985) で長編映画デビュー。低予算で作った『ビートルジュース』の大成功から、一躍、スタジオ大作『バットマン』(1989) 、『バットマン リターンズ』(1992) とハリウッドを代表する監督となっていく。また、当時はほぼ無名で、売れないコメディアンだったマイケル・キートンが『ビートルジュース』を機に、コメディだけでなくあらゆる役に抜擢されるようになる。その後時代を経て、クリストファー・ノーラン監督のバットマン三部作も最高な作品だが、口が裂けたジャック・ニコルソンのジョーカー(『バットマン』)や、鼻の大きなダニー・デビートの怪人ペンギン( 『バットマン リターンズ』 )など、ティム・バートン監督が蘇らせたDCコミックスのキャラクターもまた映画史上に残る怪物たちである。