動画配信サービスが普及し、日本人俳優が出演する海外ドラマも増えてきている。7月10日からスタートしたAppleTV+の新シリーズ「サニー」は、日本在住アイルランド作家コリン・オサリバンの「ダーク・マニュアル」が原作。英国で出版された当初の原作名は動画化にともなって変更され、主人公に残された新型家庭用ロボット(A.I.ホームbot)の名前 “Sunny (サニー)”がタイトルとなり、米出版の原作名も「Sunny : A Novel」に改名。原作から映画や配信シリーズを多く立ち上げたAppleTV+はコメディシリーズ「テッドラッソ:破天荒コーチがゆく」シリーズ(2020~) やSFドラマ「サイロ」(2023)などのヒットをふまえて、若いクリエイターたちのプレイグラウンドになってきている。近未来の京都を舞台に、コメディとスリラーを合わせたようなこのドラマシリーズ「サニー」は、映画『ミナリ』(2020)『アフターヤン』(2022)など、先鋭的なアジア系タレントを世に発信したA24が提供している注目作なので、このコラムでも注目してみた。
米女優ラシダ・ジョーンズとジュディー・オングのケミストリー
「何処で生きても流れ者 どうせさすらい ひとり身の〜♫♪」という米国版の予告編に流れる渡哲也主演映画『東京流れ者』の主題歌。鈴木清順監督映画にも感化された米女性クリエイターたちが選んだ主人公は、夫と息子をなくして日本をさすらう異邦人スージー。主演は「サイロ」でも注目された女優ラシダ・ジョーンズ。彼女の実父は、音楽プロデューサー/ミュージシャンのクインシー・ジョーンズ。ラシダは両親の離婚後、母方で育ち、ハーバード大学で宗教学と哲学を専攻。部活で演劇部に所属したことをきっかけに、俳優の道をすすんだサラブレッド。慈善事業家としての活動も熱心で「Peace First」という子供教育団体の委員や、ビル・ゲイツに世の中の疑問を問うポッドキャスト「Bill Gates and Rashida Jones Ask Big Questions」もリードするなど社会環境に熱心な女優である。
彼女が演じるのは、夫と息子を墜落事故で亡くして途方にくれるアメリカ人女性スージー。第1話のオープニングは少々重たいが、ハイテクな同時通訳補聴器で、事故後のインタビューにスージーがしぶしぶ日本語で答えるあたりから、このドラマの舞台が非日常であることが浮き彫りになってくる。質問されている横で、「スージーさん!」と苛立ちを隠せないのが、夫マサの母、ノリコ。日本語は挨拶程度しか話せない息子の妻を見下ろしながら、京都のしきたりの中で体裁を取り繕おうとする姑ノリコ役を美しい着物姿で演じるのがジュディ・オング。この2人の嫁姑関係が、物語のコミカルな要素となってエピソード毎に内容を盛り上げていく。
ジュディ・オングの米コンテンツへの出演はこれが初めてではない。キャスティング・ディレクターの奈良橋陽子は、「日経アメリカ人強制収容所の野球チームを題材にした『American Pastime』(2007)という米映画にジュディ・オングをキャスティングした前後から、彼女のことをよく知っていたそうだ。「ドラマでの演技もさながら、ジュディ自身も熟知していないユーモアのセンスや快活さが、このAppleTV+「サニー」に必要だった。ラシダ演じるスージーの姑役として、オーディションテープを作り、クリエイター、ショーランナーで制作総指揮のケイティ・ロビンスと最終的な対面を得て、出演が決定。バイリンガルの役者としてのスキルもそうだが、人を魅了するエネルギーや本人が気づいていないお茶目さが、このノリコ役にぴったりだと思ったし、実際にその魅力がドラマで反映されている。」と答えてくれた。