May 03, 2024 column

第47回:『エクス・マキナ』監督のアレックス・ガーランドがA24と組んだディストピア映画『CIVIL WAR』の米反響

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珠玉のキャスト、そして監督のメッセージ

主人公リーを演じたのが、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994) で子役デビュー、『スパイダーマン』(2002) で大役を得たあと、ソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』(2006) 、そしてアカデミー賞ノミネート作品『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021) など、着実に大女優として歩み続けるキルスティン・ダンスト。リーを尊敬する若いフォトグラファー志望のジェシー役に、同じくソフィア・コッポラの『プリシラ』(2023) で主役に抜擢されたケイリー・スピーニーが体当たり。ソフィア・コッポラに、スピーニーを勧めたのがキルスティン・ダンストだそうで、公私ともに、先輩・後輩のような2人の女優は絶妙な相性。キャリアを突き進んだ女性リーと、そのキャリアに憧れる駆け出しのフォト・ジャーナリスト、ジェシーがこの映画の原動力。生死もかまわず、報道するために突き進む戦地特派員たちの姿は力強く、老若男女4人のロードムービーは、今までに見たことのないリアルな課題を突きつけ、争いがない平和への思いを募らせる。

『エクス・マキナ』の美しい人工知能、AIの姿を私たちの脳裏に焼きつけたガーランド監督は、もともとは作家。1996年に著作「ザ・ビーチ」でセンセーショナルに作家デビューして以来、レオナルド・ディカプリオ主演『ザ・ビーチ』(2000) の映画化で、監督ダニー・ボイルと組み、『28日後・・』(2002) や『サンシャイン2057』(2007) ほか、数々の映画の脚本も手がけている。去る3月14日、テキサス州オースティンで毎年行われるSXSW映画祭では、10年前の『エクス・マキナ』プレミアと同日同会場で、新作披露。プレミア会場のステージで挨拶した際、この脚本を書くにあたって、自らの父親が英国の新聞のカートゥーニスト (一コマ漫画家) だったことを明らかにし、従軍記者だった父の友人が家に集まり、あらゆる世界情勢について論議していた幼少時の思い出に触れ、彼らをヒーローにするような映画を作りたかったとも語っている。

この作品が米大統領選前でタイムリーだと言われることに対し、「この企画は4年前の選挙の時に思いついたものの、Covid-19で実現できなかっただけ。アメリカで内戦が起きるのではというディスカッションは長い間、いろいろな場で語られていた。戦争は世界各地で起きていて、これは英国でも起こりうることだ。」と話し、さらには、映画の中で、近未来のアメリカでは、連邦政府から19の州が離脱し、テキサス州(共和党多数)とカリフォルニア州(民主党多数)が一体となって対政府軍と戦うなど、映画はどちらの米政党サイドに立たないことで、観客がそれぞれで考える映画となってほしいと語っていた。

キルスティン・ダンストは、フォト・ジャーナリストを演じるにあたり、カメラを構えるということに慣れることが第一だったそうで、監督からは、シリア内戦の報道中に亡くなった米国出身ベテラン戦争特派員メリー・コルビンさんについての本「 Under The Wire -Maria Colvin’s Final Assignment 」( 英国「 The Sunday Time 」の同僚で報道写真家ポール・コンロイ氏が著者 ) を読むことを命じられたという。さらには、映画『炎628』(1985) を観て、戦争の残酷さ、人間そのものの残酷さを学ぶことも、この役作りに必要だったそうだ。

戦場を記録し続けたジャーナリストや兵士がその残虐な戦地での心体的体験をすると日常の生活に戻れずに、精神が麻痺してまた戦場へ戻るケースも少なくない。本作では主人公リーと常に行動を共にするジョエルがそれに該当するが、演じたブラジル人俳優ワグナー・モウラも、紛争地帯へ赴く記者たちの生のレポートの重要さを熱っぽく語っていた。

今のアメリカにとって、内戦は対岸の火事ではない。米ヴァラエティ誌では、この映画の記事で、特別コラムニストでエンターテインメントによって和解の橋渡しを推進するというブリッジ・エンタテイメント・ラボのスティーブン・オリカラを招き、この映画から始めるディスカッションを増やしている。米政党二極化で悪化する米国民の対立をただ傍観するのでなく、大統領選挙へのエネルギーをもっとポジティブなものに変え、歴史を繰り返さないように努力することが最も大事だと、和解へ向けての対策まで掲げられ、この映画への関心はこの夏一層、高まりそうである。

文 / 宮国訪香子

映画『CIVIL WAR』(原題) 

舞台は、連邦政府から19の州が離脱したという近未来のアメリカ。国内で大規模な分断が進み、カリフォルニア州とテキサス州が同盟した西部勢力と政府軍による内戦が勃発していた。戦場カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリスト・チームは、ニューヨークから約1300km、戦場と化した道を走り、大統領がホワイトハウスに立てこもる首都・ワシントンDCへと向かう。

監督:アレックス・ガーランド

出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニ―

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

2024年10月4日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

公式サイト happinet-phantom.com/a24/civilwar/

映画『マリウポリの20日間』

2022年2月、ロシアがウクライナ東部マリウポリへ侵攻開始。戦火に晒された人々の惨状をAP通信取材班が命がけで撮影を敢行し、決死の脱出劇の末、世界へと発信された奇跡の記録映像。

監督:ミスティスラフ・チェルノフ

配給:シンカ

©2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

公開中

公式サイト synca.jp/20daysmariupol/

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。