Dec 11, 2023 column

第41回:全米日本映画旋風 ! 興収1位の『君たちはどう生きるか』、そして『ゴジラ−1.0』の快挙

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『ゴジラ−1.0』を97%支持したロッテントマトのトマトメーターとは

映画をわかりやすくランク付けで認証することで定着した「ロッテントマト・ドットコム(rottentomatoes.com) 」は米映画ファンがどの作品を見ようかと判断する際に参考にするサイトで、映画やテレビシリーズなど、コンテンツの数が大幅に増え判断がむずかしくなったことで面白い作品を簡略化して見分けられることが人気。このシステムがなぜ成功し、多くのドット・コムが消えてなくなっていた時代を生き延びたかは、今回、ゴジラの記事をほぼ毎日載せ続けるロッテントマトお墨付き批評家アレックス・ボー(ALEX VO)も触れている。サイトの歴史にはアジア系アメリカ人スタッフの貢献が大きいのだそうだ。

発案者セン・ドゥオン(Senh Duong)はベトナム系中国人。70年代にボートピープルとしてアメリカに移民した両親をもつ世代である。彼はジャッキー・チェンの映画ファンで、1998年の9月に公開された『ラッシュ・アワー』の映画批評をさがしているうちに、アジアでスーパースターだったジャッキー・チェンの多くの映画が米国内で知られていなく、批評もまばらであることに注目。映画を売るための宣伝を読むのではなく、批評の良し悪しを一覧できるようなサイトを作りたいと思ったのが、このサイトのはじまりだそうだ。映画が大好きだったセン・ドゥオンが、ジャン・クロード・ローゾン監督SFファンタジー作品『レオロ』(1992)で、女性がトマトによって妊娠させられたというエピソードから、このサイトをロッテントマトと名付け、バークレー大学の学生仲間によって始まったこのウェブサイト。ほとんど例のないビジネスモデルとして成功した理由の一つに、当時の映画批評家で最も定評があったロジャー・イーバート(淀川長治のような存在)が、ロッテントマトの批評サイトを高く評価したことも大きなターニングポイントがあったそうだ。

ロッテントマトに所属する批評家それぞれで、好みがかなり違うことは映画批評が主観的なメディアであることを表している。X(元ツイッター)のフォローとある意味、似ていて、同じテイストを持つ批評家のランキングに注目し、勧められた映画を好んで見る傾向はとても強い。おすすめしない映画にはロッテン(腐っている)、肯定的な批評が70%以上はフレッシュ(新鮮)、そして80%以上の場合はサーティファイド・フレッシュ(最も新鮮)というランキングである。つまり、このロッテントマトのお墨付き制度がアメリカの映画動員を大きく揺るがしている現状がある。さらに、批評家の人種の多様化、観客批評動員がロッテントマトをより人気にしていったポイント。2019年、ジェニー・ジェディニー(シニア・マネージャー)は、トマトメーターお墨付き批評家の人種多様化をめざし、世界規模で、グローバルなコンテンツを求める幅広い観客に答えるメディアサイトにしていくことを宣言。以来、新しいガイドラインを設定し、既存の新聞やテレビメディアの批評家だけでなく、ジェンダー、人種、経歴、個人のポッドキャストの支持率などが評価され、さまざまなバックグラウンドを持つ批評家や観客がこのウェブサイトを支えている。大昔のクラシック映画であろうが、字幕つきの外国語映画であろうが、分け隔てなく新旧映画の情報を提供し、幅広い層で評価していく点でもこのウェブサイトの支持率は高く、北米観客の嗜好が多様化していることが、『ゴジラ−1.0』のヒットの一つの要因といえる。

アレックス・ボーはゴジラ・フランチャイズを追う批評家の1人。『ゴジラ−1.0』の公開前11月29日にはモンスターバース映画シリーズのランキング付けを発表。AppleTV+の「モナーク:レガシーオブモンスターズ」やNetflixのアニメ『髑髏島』などのランク付を発表するだけでなく、来年、2024年4月12日全米公開予定の『ゴジラ×コング:ザ・ニューエンパイア(原題)』への期待も寄せていた。

先週末のゴジラ大ヒット興収を受けて、12月4日に掲載されたオール・ゴジラ映画のランキングの記事や、今見るべき映画30作ランキングで、『ゴジラ−1.0』をトップ映画として発信したアレック・ボーの選んだベスト38ゴジラ映画のトップ10の首位は日本製ゴジラ映画が大半。過去作を愛するコアなファンと『ゴジラ−1.0』を支持する新観客層によって『ゴジラ』のレガシーが新たに塗り替えられ、今後の日本製『ゴジラ』映画に期待がかかっている。

ロッテントマト満足度(2023年12月7日現在)

 『ゴジラ−1.0』(2023) 97%

2 『ゴジラ』(1954) 93%

3 『シン・ゴジラ』(2016) 86%

4 『ゴジラvsコング』(2021) 76%

5 『GODZILLA ゴジラ』(2014) 76%

6 『ゴジラvsデストロイア』(1995) 100%

7 『モスラ対ゴジラ』(1964) 92%

8 『ゴジラvsメカゴジラ』(1974) 86%

9 『怪獣王ゴジラ』(1956) 83%

10 『ゴジラvsメカゴジラ』(1993) 83%

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『ゴジラ-1.0』 

戦後、無(ゼロ)になった日本へ追い打ちをかけるように現れたゴジラがこの国を負(マイナス)に叩き落す。史上最も絶望的な状況での襲来に、誰が?そしてどうやって?日本は立ち向かうのか。

監督・脚本・VFX:山崎貴

出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介

配給:東宝

©2023 TOHO CO.,LTD.

公開中

公式サイト godzilla-movie2023

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。