新型コロナ・ウィルスというネガティブな状況がもたらしたポジティブ効果
SF大作の米平均予算が高額な理由の一つは、映画のための特別セットを作り、グリーンスクリーンの前で俳優の動きを特殊カメラで撮影、さらにはコンピューター上で作り出す最先端のVFX映像製作の過程や人件費が起因している。ジェームズ・キャメロン監督『アバター』シリーズ (2009~) のパンドラなど、IMAX劇場で体験する世界観はもちろん別格。しかし、どれだけ巨額な予算をかけても、物語の魅力にかけるVFX映画も山ほど作られていて、ハリウッド大作映画の魅力が薄れてきていることも事実である。
ギャレス監督は『ザ・クリエイター/創造者』を考案したときから、スタジオ内の撮影では少ないリアルワールド感を膨らませるために、2Dトラッキングやロトスコープなど、現場撮影後に特殊効果をほどこす過程を逆算して撮影プランを組んでいったのだそうだ。もともと、この脚本を思いついた原点はアイオア州の、のどかなとうもろこし畑をドライブ中に突如、日本の工場が現れたことだったそうで、アジアと近未来は必須要素。ニューアジアの舞台に選んだロケ地はネパール、カンボジア、インドネシア、東京、ベトナム、タイなど、ギャレス監督自身が選りすぐった場所でロケハン。クルーを少人数にすることで6ヶ月の撮影スケジュールを決定した矢先、世界中が新型コロナ・ウィルスの流行でシャットダウンし、撮影は延期。
さらに、撮影予定だったカンボジアの湖上生活を舞台にした撮影が不可能になり、ロケーション・マネージャーが別のロケ地候補を提示。タイの中心から遠く離れたカンチャナブリー県サンクラブリーにある全長およそ440メートルある世界で2番目に長い木造の橋での撮影に変更。映画の山場を盛り上げる立地条件に恵まれる幸運に恵まれたのだそうだ。とくに、コロナ禍後、久しぶりに異邦人に会うアジア圏現地の人々が、映画スタッフを純粋に歓迎してくれ、まるでドキュメンタリーを撮るような感覚で、自然体の人々の表情が撮影できたのだという。
その可能性を広げたのが、ソニーのプロフェッショナルカムコーダー、SONY FX3。Cinema Lineシリーズのこのカメラは、最小、最軽量で高感度のISOと、『DUNE/デューン 砂の惑星』でもこのカメラを使用したDP(撮影監督)のグリーグ・フレイザーもこの映画で使用。実際にカメラマンでもあるギャレス監督、CO-DP(共同撮影監督)のオレン・ソファーとともに、アトラス・スコープ・アナモーフィック・レンズを使って、クラシック映画『ベン・ハー』(1959) やクエンティン・タランティーノ監督『ヘイトフル・エイト』(2015) でも使われたアスペクト比2.76:1というワイドなシネマスコープを可能にし、映像美のこだわりを妥協しなかった監督の偉業はなかなかのものである。今後、さらに進化していくAI時代の映画監督たちにも拍車をかける新しいVFXの試みは、劇場で鑑賞したい一作である。
文・撮影 / 宮国訪香子
遠くない未来、人を守るはずのAIが核を爆発させた‥‥人類とAIの戦争が激化する世界で、元特殊部隊のジョシュアは人類を滅ぼす兵器を創り出した“クリエイター”の潜伏先を見つけ、暗殺に向かう。だがそこにいたのは、純粋無垢な超進化型AIの少女アルフィーだった。そして彼は“ある理由”から、少女を守りぬくと誓う。やがてふたりが辿りつく、衝撃の真実とは。
監督・脚本:ギャレス・エドワーズ
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺謙、ジェンマ・チャン、アリソン・ジャネイ、マデリン・ユナ・ヴォイルズ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2023 20th Century Studios
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