映画『M3GAN/ミーガン』の全米、新年明けのオープニングは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022) に並び、製作予算約1,200万ドル (約17億円弱)の2倍強の約3,000万ドル(約40億円)の興収で大ヒット。新しい「スクリーム・クィーンの誕生 ! 」と、2023年お正月、記録的雨量で潤ったロサンゼルスの映画業界を活気づけた。
映画『M3GAN/ミーガン』の全米大ヒットからほぼ半年がたった現在、アメリカでは人工知能の急激進化で対話式AI脅威の話題が沸騰。先月5月16日、アメリカ上院議会はChatGPTのベンチャー企業「オープンAI」のCEOを招き、AIの安全な利用方法について約3時間の公聴会を決行。AI使用ルールの規制についての証言が一般公開された。AIによって人間の尊厳はどう置き換えられるのか。『M3GAN/ミーガン』の脚本を書いた女性脚本家アケラ・クーパーは、2ヶ月目に入った全米脚本家組合(WGA)ストライキにおいて、スタジオやWGAビルの前のデモ行進の様子を自身のインスタグラムに掲載。「脚本は生身の人間が書いたものです!」という、血まみれのプラカードなども目につき、トップクラスのホラー映画脚本家たちも加わって、映画製作者協会(AMPTP)に強い抗議の声を上げている。
まさにホーキング博士が懸念したAIの脅威は映画『M3GAN/ミーガン』 を見れば一目瞭然。しかし、この映画が優れている点は、社会派な内容だけではない。畳み掛けるサスペンスは極上で、ホラーが苦手な私も大絶賛。サスペンスの中にミュージカルの要素、笑いと涙を誘うシーンが盛り込まれ、主人公、そしてキラードールのM3GANにまで感情移入させられてしまう、とんでもない映画である。さらに、映画のテーマ ”ファウンド・ファミリー” という、血縁でない人たち(ここではAIと人間)が集まって作り出す家族のテーマなど、M3GANをゲイ・アイコンとして讃えるLGBTQ層からの人気炸裂。サタデー・ナイト・ライブでも、すでに公開が2025年に決定した『M3GAN 2.0(原題)』をお笑いの題材にするなど、M3GAN旋風は続いている。作り手が想像していた以上の反響があったこの映画、映画『ゲット・アウト』の次に、AI時代を斬るヒューマンなホラー映画となった理由について、俳優、スタッフの情熱をここで紹介したい。
ハリウッド映画とAIの個性
AIの脅威はこれまでに何度もハリウッド映画の題材になっている。『エクス・マキナ』(2014)、『her 世界でひとつの彼女』(2013)、去年このコラムにも書いた『アフター・ヤン』(2022)など、脚本家が次々と考え出すAIと人間の関係はもう近未来の課題ではなくなってきた。これらの映画がおもしろいのは、AIの個性とともに、AIに寄り添う人間たちが巧妙に描かれる点。映画のタイトルM3GAN(ミーガン)はModel3Generative Androidというアンドロイドモデルを省略した呼び名で、おもちゃメーカーのロボティストであるジェマのドリーム・プロジェクト。ジェマの知識、好きな作家、嗜好などがふんだんに詰め込まれたAI人形は、ジェマの助っ人として大活躍するはずの理想のAI人形だったのである。
主人公ジェマを演じるのが、映画『ゲット・アウト』で主人公の白人ガールフレンドを演じた女優アリソン・ウィリアムズ。『M3GAN/ミーガン』では、突然の姉夫婦の交通事故で、一人残された姪のケイディを一時的に預かることになる。ケイディとは血縁であっても、仕事一筋だったジェマは、子育ては未経験どころか無関心。両親を突然亡くしたケイディのトラウマは深刻なことを知りながらも、仕事場でのミスで頭がいっぱい。利益重視の社長からおとがめを受ける女性ロボティストの像は、脚本家のアケラ・クーパーが考え出した内容。映画『マリグナント 狂暴な悪夢』で、この映画のプロデューサー、ジェームズ・ワンとも組んだ経験のあるクーパーは、ヴァラエティ誌が選んだ2021年トップ10脚本家の一人。『M3GAN/ミーガン』脚本のアイディアは、姉夫婦から、遺言作成で姪の保護者になってほしいと頼まれたことからAIに関わる家族の形を膨らませたという。
クーパーが描く叔母と姪の関係は最初はぎこちないものの、ジェマの仕事への情熱が2人を結ぶ重要なポイントになっていく。深夜、ジェマの学生時代に作ったAIロボットに興味を示すケイディに共通点を見つけ、熱心にメカの構造を説明。頑丈なタイタニアムの頭にはめ込まれたカメラ、チップ、そしてマイクロフォンという部品が、ジェマの指示で動きだす様子に感動するケイディ。「こんな人形がいたら、絶対手放したくない!」という言葉に触発されたジェマは、社長の意向に反して開発途中だったAI人形M3GANを完成させるのだった。