情熱人間ドキュメンタリー『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』
このドキュメンタリー映画と日本の関係は深い。1991年の雲仙・普賢岳の調査中に火砕流に巻き込まれ、この世を去った仏夫妻は火山研究のスペシャリストだった。世界中の火山に魅了され、噴火すれすれの現場まで近づいて、地中のマグマが地上に噴き出す様子を撮影、身の危険を顧みずに記録映画を撮影していたおしどり夫妻についてはフランス本国でかなり報道されていたものの、今回、世界中の人たちが彼らの情熱、夫婦愛を知ることになるのである。
ドキュメンタリーにはいろいろな種類がある。前半にふれた『オール・ザット・ブリーズ』のように、シネマ・ヴェリテという、できるだけナレーションのない、取材対象のありのままの姿を映像で畳み掛ける映画もあれば、昨年、アカデミー賞を受賞した『サマー・オブ・ソウル(あるいは革命がテレビ放映されなかった時)』のように、約半世紀、未発表だった貴重な映像が集められ、修復されて蘇るタイプの記録映画である。
この映画は後者。サラ・ドーサ監督は前作『Seer and the unseen(原題)というスピリチュアルな女性と、彼女が信じる自然の神秘や、目では見えない伝達者からのメッセージについてドキュメンタリー映画を制作した際、活火山について取材。その調査の過程で、仏科学者夫妻の残した火山の映像のことを知ったという。
地質科学者の妻カティアと地質学者の夫モーリスは怖いもの知らず。学生時代に出会い、3年して結婚した1970年からほぼ20年間、2人はあらゆる火山地帯を訪れ、その現状をカメラで捉えてきた。夫婦の情熱に見せられたドーサ監督は、彼らがこの世を去った長崎県、雲仙のふもとまでの軌跡を追いかけ、夫妻が残した未発表の火山研究映像を発見。噴火の美しさに魅了された夫婦が、少しでも災害の危険性を予知したいと命を投じ、自然の驚異を目の前に、この映画の中で愛の証として描かれる。