3月12日(現地時間)に迫ったアカデミー賞。毎年、アカデミー協会はオスカーウィークと題し、授賞式を盛り上げる数々のイベントを行うのが恒例。今年からそのイベントがアカデミー映画博物館で行われることになり、ノミネートされた長編ドキュメンタリー映画の作家たちのQ&Aも今月9日(現地時間)に行われる予定で一般人も参加ができる。
今年ノミネートされているドキュメンタリー長編映画のほとんどが昨年、2022年のサンダンス映画祭から発信された作品。一昨年、ドキュメンタリー部門審査員大賞および観客賞を受賞した作品『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』も、約1年の宣伝期間を経て見事、アカデミー賞ドキュメンタリー長編映画賞を受賞している。
今年1月に、サンダンス映画祭で審査員賞を受賞したドキュメンタリー映画『The Eternal Memory(原題)』は認知症を生きる老夫婦の愛の物語。監督はチリ出身。『83歳のやさしいスパイ』を監督したマイテ・アルベルディの作品で、MTVドキュメンタリーが他社を制し、約300万ドル (日本円で約4.1億円) で権利を買い付けた作品。映画は先月ベルリン国際映画祭でワールドプレミア、そして、米劇場で公開後、来年のアカデミー賞ノミネーションに向けて宣伝活動が行われるのである。
今回は、日本の配信サービスで視聴が可能な情熱人間ドキュメンタリー3作品をご紹介。
インド発信『オール・ザット・ブリーズ』
環境問題をテーマにしたドキュメンタリー映画はたくさんあるが、この映画は格別。タイトルにあるように、冒頭でねずみ、ハエ、豚、猿など、ニューデリーの都市に生きる、すべての息づくものたちの映像がモンタージュされ、美しい映像の中に捉えられる。怪我をしたトビの表情は難民のような目で我々を見つめ、インド、ニューデリーの大気汚染の深刻化がどれほどひどいのか、環境改善の切実さを訴えてくる。
ムスリム系インド人兄弟ナディームドとサウドは子供のころから野鳥保護に関わってきた。鳥はかけがいのない生き物として教えられてきた幼少時代。怪我をしたトビを助けたことをきっかけに、これまで、二万羽以上の野鳥保護に関わってきたのである。大気汚染がひどくなったニューデリーで、空を飛べなくなったトビの治療に明け暮れる毎日。兄弟とその友人は狭い家の中で、医療、エサ集めに明け暮れ、終わりが見えない野鳥保護への使命感はやがて家族の生活をもおびやかし始める。自らの経済的限界に打ちのめされながらも、すべての生き物たちが健全に生きられるエコシステムについて、より深く考えさせられる映画である。
監督したのは、インドのドキュメンタリー作家、ショーナック・セン。前作『Cities of Sleep』(2016) ではガンジス川最大の支流ヤムナー川の流域で眠るホームレスをドキュメントし、眠りをテーマに、社会の底辺でさまよう人々の姿を追っていた。今作でも、監督の目線は、様々な問題を抱えるインド、デリーを舞台に、環境改善の切実さ、生きることの苦しみを独自の目線で写していく。撮影監督はドイツ出身、ベンジャミン・バーンハード。サンダンス映画祭ではワールドシネマ部門でベストドキュメンタリー賞を受賞。カンヌでは優れたドキュメンタリー映画に与えられるゴールデン・アイ賞、そして、3月12日に受賞式が迫ったアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている。