Jan 24, 2023 column

第24回:クリティクス・チョイス・アワード受賞内容からアカデミー賞予測! 急上昇している映画『ザ・ホエール』と主演男優ブレンダン・フレイザー

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俳優ブレンダン・フレイザーは現在54歳。映画『ハムナプトラ』シリーズの主演で人気を博し、鰻登りの若手スターだった。しかし、主役級の役にめぐまれず、さらには、2018年、ゴールデングローブ賞の当時のプレジデントにセクシュアル・ハラスメントを受けて、公に抗議したにもかかわらず、その内容が裏目にでて俳優としての帰路に立たされていた。

ブレンダン・フレイザーは今年のゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされていたが、去年の11月、GQマガジンのインタビューで、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)は尊敬できないと断言し、アワード賞出席を拒否していた。(参考リンク:How Brendan Fraser Made It All the Way Back)

ゴールデングローブ賞はセクシュアル・ハラスメントや黒人記者差別、現役で活躍するジャーナリストでも団体加入をさせないという排他主義が批判され、トム・クルーズは以前に受賞した際のトロフィーを返却するなど、Aリストスターがいまだに授賞式参加拒否。今年に入ってNBCがゴールデングローブ賞を放送したものの、団体への信憑性や今までの勢いに欠け、賞そのものの存続が問われている。

映画『ザ・ホエール』は2012、NYのオフ・ブロードウェイの舞台で演じられていた。その戯曲を手掛けたのがサミュエル・D・ハンター、この映画の脚本家でもある。本人の経験を元に戯曲化されたこの物語は、肥満症、同性愛、そして宗教と、アメリカの世情を大きく反映している。ブレンダン・フレイザーの巨漢となった姿に気後れし、観客動員が今一つだったこの映画だが、主演男優賞の受賞で、アカデミー賞など、拍車がかかったことは確実。

Getty Images for Critics Choice

映画の冒頭から、主人公チャーリーの教師としての情熱が、肥満症とは相反してポジティブに描かれるこの映画。その真摯なチャーリーがなぜ、肥満症になっていったのか。巨漢の主人公チャーリーの苦しみは、彼の面倒を見る看護婦、そして、突然現れるモルモン教の若い伝道師など、クモの糸のように張り巡らされた人間関係によってあぶり出される。

チャーリーにとって最も大事なのは、離婚した妻の元に残したことで疎遠になった一人娘。しかし、その巨体はチャーリーの命を病みはじめ、それでも、最後のエネルギーを振り絞って、自ら引き起こした娘との関係修復に挑むのだった。

監督は、期待を裏切らない手腕で定評があるダーレン・アロノフスキー。これまで監督した4作中、主演の4人とも、アカデミー賞主演男優、または女優賞にノミネートされるという、俳優を豹変させる凄腕で知られている。ナタリー・ポートマンが主演女優賞に輝いた映画『ブラック・スワン』は今でも多くの映画ファンを魅了している。

ロサンゼルス・タイムズのインタビューによると。アロノフスキー監督は舞台を観た際、登場人物だった人間たちが、まるで自分の家族のように、最後、思いやることができたんだと、物語の普遍性に大きな感銘を受けたそうだ。今回受賞した、男優ブレンダン・フレイザーとの熱いコラボの成果に満足そうであった。

Photo by Niko Tavernise

(参考リンク:The Winners of the 28th Annual Critics Choice Awards)

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『ザ・ホエール』

ボーイフレンドのアランを亡くして以来、現実逃避から過食状態になり健康を害してしまった40代の男チャーリー。アランの妹・看護師のリズの助けを受けながら、オンライン授業でエッセイを教える講師として生計を立てているが心不全の症状が悪化し、命の危険が及んでも病院に行くことを拒否し続けている。しかし、自分の死期がまもなくだと悟った彼は、8年前、アランと暮らすため家庭を捨てて以来別れたままだった娘エリーに再び会おうと決意。彼女との絆を取り戻そうと試みるが、エリーは学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた‥‥。

監督:ダーレン・アロノフスキー

原案・脚本:サム・D・ハンター

出演:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン

配給:キノフィルムズ

© 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

2023年4月 全国公開

公式サイト whale-movie.jp

映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

破産寸前のコインランドリーを経営するエヴリンは、気が弱く優柔不断な夫、いつまでたっても反抗期の娘、ボケているのに頑固な父を抱え、更に税金申告の締め切りが迫りテンパりモード、まさに人生どん底状態。そんな彼女が国税庁の監査官に厳しい追及を受けている最中に、突然、夫のウェイモンドに連れていかれたのはなんと並行世界(マルチバース)‥‥。めくるめく三千世界に迷い込んだ彼女の前に現れたのは、「僕は君の夫じゃない。別の宇宙(ユニバース)から来た“僕”だ」と言う、見違えるようにたくましい夫。さらに「マルチバース全体に巨大な悪が。君だけがそれを止められるんだ。」と告げられたエヴリンは救世主へと覚醒?! カンフーマスターばりの身体能力を手に入れた彼女は全人類の命運を掛けた壮大な闘いに挑んでいく。

監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート

出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス

配給:ギャガ

© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

2023年3月3日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

公式サイト gaga.ne.jp/eeaao/

映画『TAR/ター』

ドイツの有名オーケストラで、⼥性としてはじめて⾸席指揮者に任命された指揮者リディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、天才的能⼒と、たぐいまれなるプロデュース⼒で、⾃⾝を1つのブランドとして作り上げてきた。しかし、のしかかる重圧、過剰な⾃尊心、仕掛けられた陰謀により、彼⼥の心の闇は少しずつ広がっていく‥‥。

監督・脚本:トッド・フィールド

出演:ケイト・ブランシェット、マーク・ストロング、ジュリアン・グローヴァー

配給:ギャガ

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

2023年5月 公開

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。