Jan 17, 2023 column

第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』

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新年早々、全米撮影監督協会賞のノミネーションが発表された。今年17度目のノミネートとなったのが映画『エンパイア・オブ・ライト』の撮影監督ロジャー・ディーキンス。1991年の『バートン・フィンク』以来、コーエン兄弟の作品をほぼ全作手掛け、『ショーシャンクの空に』などでアカデミー賞撮影賞に何度もノミネートされている撮影監督である。

『ブレードランナー2049』で14回目のノミネートで初アカデミー賞撮影賞受賞。『1917 命をかけた伝令』で2度目の栄冠に輝いている。『エンパイア・オブ・ライト』サム・メンデス監督とは『007スカイフォール』などのヒット映画など、常に息の合った間柄。

去年の暮れ、サンタモニカのピーター・フェッターマン・ギャラリーでは、ロジャー・ディーキンス撮影監督の写真家としてのキャリアを称えた写真展が行われ、映画の一場面のようなシュールな白黒写真の数々が展示され、訪れた人たちを魅了していた。(参考リンク:PETER FETTERMAN GALLERY ROGER DEAKINS – EXHIBITION)

第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』
Photo by Roberto Fabiani
第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』

映画『エンパイア・オブ・ライト』

映画館を舞台に描かれた映画『ニュー・シネマ・パラダイス』は、映画好きにとってはたまらない名作。去年、東京の岩波ホールがなくなり、私も衝撃を受けたが、コロナ禍や配信ストリーミング時代に突入して、映画館がなくなっていく寂しさは否めない。サム・メンデス監督もそのうちの一人。今回初めて、一人で脚本を手掛けたというこの作品は、監督にとって、私的な内容が詰め込まれた大事な作品なのである。

第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』
ハリウッドのビルボードに飾られたビジュアル(写真提供:宮国訪香子)

この映画を制作したきっかけをハリウッド・リポーター誌のライブ・インタビューで答えていたが、父親になって何が自分の人生を変えたかを考えたとき、母一人、子一人で育ち、その母親が双極性障害であったことが常に影響していたそうだ。

監督はその母のことを書きたいとつねに思い続けていたが、自伝ではなく、主人公ヒラリーという女性に置き換えて、周囲のあたたかい愛情によって心の闇から解き放たれ、映画館の中で生きるための光を見出していくという映画を完成させたのである。

第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』

イギリス南東部のマーゲートという行楽地で撮影されたこの作品。その海辺の街は1950年から60年にかけて、モッズという労働階級の若者集団と、ロッカーズという革ジャンのバイカーたちの対立の場ともなったという英国ユースカルチャーが栄えた場所で、T.S.エリオットなど、数々の英国出身アーティストがインスピレーションを得た場所でもあるようだ。

アールデコの遊園地にあった古い映画館の一角は、ポストカードにでてくるようにレトロで美しい。1980年代のイギリス社会は監督自身が刺激を受けた時代。映画では、その時代の音楽や映画もたっぷり引用されていて、トレント・レズナーのサウンドトラックとともに、静かに語りかける秀作に仕上がっている。

ハリウッド映画愛が炸裂する『バビロン』

アカデミー賞作品賞ほか6部門を受賞した映画『ラ・ラ・ランド』で一躍スターダムにのぼったデイミアン・チャゼル監督。監督のジャズ音楽、そしてハリウッド映画への嗜好は有名で、『ラ・ラ・ランド』では往年のフレッド・アステアやジンジャー・ロジャースなど、ハリウッド映画ミュージカル全盛期を現代に置き換え、ロサンゼルスの渋滞するフリーウェイの上で大勢のエキストラが踊り出すシーンは、映画らしい壮大な設定で、観客を喜ばせた。

第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』
『ラ・ラ・ランド』© GAGA Corporation. All Rights Reserved.

その『ラ・ラ・ランド』の撮影を手掛けた撮影監督リヌス・サンドグレンとチャゼル監督がタッグを組んだ『バビロン』のスケールは、前作をはるかに超えるスペクタクル映像。今作では、監督の長編処女作『セッション』で描かれた人間の狂気が全面に押し出され、映画はなんと3時間7分。アカデミー賞前哨戦のクリティクス・チョイス・アワードなど、作品の評価は上位に立っているものの、全米での一般興行はなかなか伸びず、賛否両論に好みが分かれている作品である。

第23回:2023年 ー 『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い起こす映画『エンパイア・オブ・ライト』と映画愛炸裂!『バビロン』
映画館前に飾られたビジュアル(写真提供:宮国訪香子)

もともとジャズ音楽とハリウッド映画に情熱を注いできた監督は、この映画の背景となっているハリウッドのサイレント映画黄金期を描くために、15年間リサーチを重ねてきたそうだ。歴史をふりかえると、最初のハリウッド商業的長編トーキーはワーナー・ブラザースの映画『ジャズ・シンガー』。1927年当時、サイレントからトーキーにスタジオが移行し、技術的にどのような音声の問題が起きていたのかはあまり知られていない。

この映画では、そういった困難だったトーキー映画セットでの撮影風景を再現し、想像を絶する製作者たちの苛立ちを表現。サイレント映画で華やかだったハリウッドでのサバイバルにかけても、監督は登場人物の競争心をあおり、スターの浮き沈みが中心となって登場人物の運命を大きく変えていくのである。

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