Dec 15, 2022 column

第21回:全米笑い納め伝記映画『ウィアード:ザ・アル・ヤンコビック・ストーリー(原題)』

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アル・ヤンコビック自身が映画を作るとあって、カメオ出演した有名人のリストもすごい。『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラック。ブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン」の作詞作曲、主演、ミュージカル映画にひっぱりだこのリン=マニュエル・ミランダ。ポップ・オペラ歌手ジョシュ・グローバンなど多数の著名人が出演していて、天才アルの人気が窺える。

アルをたぶらかして、彼の才能を悪用しようと企むポップ音楽の女王マドンナの役を、女優エヴァン・レイチェル・ウッドが好演。ラドクリフ同様、子役の時から注目を集めていた女優だが、4歳の頃からマドンナの「マテリアル・ガール」を歌って踊るのに夢中だったそうで、マドンナ役のオファーに有頂天になったそうだ。

アル・ヤンコビック本人も製作、監修、ところどころに出演しているこの映画。前半では、厳格な父親の下で音楽家を目指すまでに至った経緯が描かれ、学校では、ベラ・ヴィクトリアンという最優秀の成績で高校を卒業と、意外な面も描かれる。アコーディオンを隠れて練習していたところを見つかって親に叱られながらも、79年にスマッシュ・ヒットとなったザ・ナックの「マイ・シャローナ」の替え歌で、歌手としてデビュー。前代未聞、替え歌で生計を立てることを可能にしていく様子はまさにアメリカン・ドリームである。

『ウィアード:ザ・アル・ヤンコビック・ストーリー(原題)』

映画の後半はパロディの天才が作る自伝?の色がより濃くなって、映画は本当のような嘘の話。「ウィアード(変な)・アル」という威名にふさわしく、自分の人生も替え歌調にアレンジしていくあたり、さすがパロディの天才と納得させられてしまう。

アメリカラジオ放送NPRのインタビューでは、「伝記映画というのは、必ずどこか、つじつまが合わない。あの大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』だって、事実と異なる箇所がたくさんあるんだから、僕の映画を伝記映画といっても全く問題はないはずだよね。」と頭の冴え加減が違う。

常に人と違う道を突き進むアル・ヤンコビックは、自らの映画を作るにおいても独立独歩で道を切り開き、映画の独占配信はネットフリックスでもアマゾンプライムでもない、アメリカ以外ではほとんど知られていないROKUチャンネル。口コミで宣伝が広がっているこの映画。不景気やデモクラシーを脅かす不安材料ばかりが話題になった今年のアメリカでも、真のエンターテイナーは、人々を笑いの渦に巻き込むパワーでみなぎっているのである。

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『フェイブルマンズ』

50年にわたるキャリアの中で、史上最も愛され、変幻自在なフィルモグラフィを世界に送り出してきた巨匠スティーヴン・スピルバーグが、“映画監督”になる夢を叶えた自身の原体験を描く。初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年(ガブリエル・ラベル『ザ・プレデター』『アメリカン・ジゴロ』シリーズ)が両親との葛藤や絆、そして様々な人々との出会いによって成長していきながら、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求める物語。

監督・脚本:スティーヴン・スピルバーグ

出演:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン ほか

配給:東宝東和

© 2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

2023年3月3日(金) 全国公開

公式サイト fabelmans-film.jp

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。