来年のアカデミー賞に向けて、続々とその前哨戦が始まっている。メンバーなら誰でも投票できるフィルム・インディペンデント・スピリット・アワードは表彰式の3月4日に向けて、いち早く、映画部門のノミネーションを発表した。今年10周年を祝うA24スタジオ作品からは、最多24賞がノミネートされている。
A24作品中興行成績トップの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(以下、『エブエブ』)は、そのうちの8部門にノミネート。多元並行した宇宙(マルチバース)が強調された予告編だけではその良さは伝わりにくいのだが、本編をじっくり観た満足度は、フィルム・インディペンデントのメンバーも同意しているようだ。
その他のA24作品は妖艶で美しいホラー映画『パール』、軍事とは関係なく、兵士の内面が描かれる2作品:『ザ・インスペクション(原題)』とジェニファー・ローレンス主演の『コーズウェイ』。前回のコラムで触れたコゴナダ監督の『アフター・ヤン』。さらに、英国俳優ポール・メスカルのファンならたまらない父娘のドラマ『アフターサン』他3作品がノミネートされている。( 参考リンク:ノミネーション作品一覧)
映画『エブエブ』の魅力をリードする俳優たち
今年からスポンサーも増えたスピリット・アワードでは、演技部門の性別をなくし、主演男女ニュートラルで主演10人の役者がノミネートされている。映画『エブエブ』では、長年、香港カンフー映画界の女王的存在だったベテラン女優ミシェル・ヨーが主演。最近ではハリウッド映画の進出も目覚ましくマーベル映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』や『ミニオンズ フィーバー』などの声優としても活躍している。
今回は常にお金に困っているコイン・ランドリーのオーナー、エヴリン役。レズビアンの娘の気持ちが理解できずに苦悩する母の姿から一転して、悪の根源と闘うファイターとして選ばれ、マルチバースの壁を突き破ってあらゆる技を習得する、とんでもないヒロインを好演している。
助演でノミネートされているジェイミー・リー・カーティスの存在感も格別。地味な米国国税庁の職員役から別の宇宙で変貌する殺し屋役など、とんでもないアクション・スターとして、今までの彼女の魅力を倍増させている。さらには、映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や、『グーニーズ』で一世風靡した子役スター、キー・ホイ・クァンも同じ助演カテゴリーでノミネート。
20年ぶりに彼がハリウッド作品に復帰した理由は、映画『クレイジー・リッチ!』を観て、時代が変わり、ハリウッドでも、アジア系アメリカ人の出番がたくさんあるんだと実感したからだそう。エージェントと契約して2週間でゲットしたというこの役は、ミシェル・ヨーの夫役やスパイ、CEO役など3役をこなすという難関。久しぶりの銀幕復帰とあって、アクティングコーチ、さらにはボディ・ムーブメントのコーチもつけて、動物のように動き回る技まで習得するなど、見事な俳優復活を果たしていてる。