Oct 27, 2022 column

第19回:北米の放送映画批評家賞会員が選ぶ、新旧韓国系フィルムメーカーの現在!コゴナダ監督の映画『アフター・ヤン』、そしてベテラン、パク・チャヌク監督作品『ディシジョン・トゥ・リーブ』

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来月11月4日に北米の放送映画批評家賞会員が初めて主催する第一回アジア・パシフィックTV&シネマ賞では、現在アメリカで活躍しているアジア人の映画監督、俳優たちが表彰される。(参考リンク:the-critics-choice-association-announces-slate-of-honorees-for-the-inaugural-celebration-of-asian-pacific-cinema-television

受賞するのは映画『ハロルド&クマー』シリーズや新『スタートレック』で人気になった男優ジョン・チョー、『ネクスト・ドリーム/2人で叶える夢』の女優ゾーイ・チャオ。監督は、韓国映画の鬼才、『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督。人気配信ドラマ部門では同名ベストセラー本が原作のアップルTVシリーズ「パチンコ」など、韓国系クリエイターたちが多く評価される。

「パチンコ」の8エピソードの監督を務めたのが、映画『アフター・ヤン』のコゴナダ監督。小津安二郎のドキュメンタリーを制作しながら、その世界観に感銘を受け、脚本家の野田高梧の名前を逆さに読んだ通称「コゴナダ」で自ら映画監督になることを決意したのだという。

人間愛に溢れたSF映画『アフター・ヤン』のアイデンティティ

長年、クライテリオン・コレクション社の著名な映画監督のビデオ・エッセイなどのドキュメンタリー番組を手がけてきたコゴナダ監督は、韓国生まれ、アメリカ育ちのシネフィル。映画『コロンバス』で映画監督デビュー。この作品は2作目となる。

『アフター・ヤン』の舞台はアンドロイドが生活の一部となっている近未来。主人公の家族は、白人の夫と黒人の妻、幼い中国人養女と、その兄役として購入されたアジア人アンドロイド、ヤン。しかし、そのヤンが機能しなくなったことで、家族の歯車が壊れ始める。娘のために、中古で買ったヤンを修理するために苦戦する父親ジェイク。しかし、そのテクノ・サピエンス(対ホモ・サピエンス)を研究する人を頼りに、ヤンのメモリーにアクセス。そこにはジェイクが忘れかけていた仕事への情熱や家族への愛情の記憶が映し出される。さらには、アンドロイドであるヤンに、もう一つの家族の秘密が隠されていた。

アンドロイドが人間になりたいというテーマは、今まで何度もスクリーンに登場したが、人間自らに欠けている要素をアンドロイドを通して学び直すという主人公の設定は新鮮。原作はアレクサンダー・ワインスタインの処女短編集「チルドレン・オブ・ザ・ニュー・ワールド」の中の一作。

携帯やコンピューターなど、テクノロジーと切り離せなくなった私たちの未来には何が待っているのか。静かにアンドロイドの死と対面する主人公が織りなすこのSF映画は、坂本龍一の音楽とともに心を揺さぶる躍動感に溢れている。

父親を演じるのが、近年、鰻登りの男優コリン・ファレル。今年9月に行われた第79回ベネチア映画祭のコンペティション部門の映画『イニシェリン島の精霊』で最優秀男優賞も受賞。前述のコラムでも取り上げたタイ洞窟レスキューの軌跡を描いた映画『13人の命』でも好感度抜群な救助ダイバーの役を演じている。ファレルのキャリアは長い。今回、家族対抗テクノダンスを踊るシーンについて、「もともと僕はダンサーだったんだよ」と、演技以外のマルチタレントぶりを披露していた。

AIのヤンを演じるのが、ネットフリックスの配信ドラマ「アンブレラ・アカデミー」で人気上昇中のジャスティン・H・ミン。ヤンが妹として愛する幼い娘ミカを好演し、米批評家からも絶賛されているのがインドネシア系アメリカ人の子役マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ。母親役はジャマイカ系英国女優ジョディ・ターナー=スミス。

多人種の交わり合いを象徴するような構成は、監督自らの問いーアジア人のアイデンティティにある。それは、アジア諸国から移民してきた人達がアメリカの白人社会に求められていることを提示。アジア人らしさとはと、移民としてアメリカに渡った自らのアイデンティティをアンドロイドを通して模索しているのである。