イギリスの言語学者J・R・R・トールキンのファンタジー小説「指輪物語」や映画『ロード・オブ・ザ・リング』のファン待望の海外ドラマシリーズが先月9月2日から全8話で全世界発信されている。プライム・ビデオではすでに、シーズン2のロケ地をニュージーランドからイギリスに移して撮影を開始している。
アメリカでは、毎週金曜日のそれぞれのエピソード配信後に「インサイド・ザ・リング―力の指輪:アフターショー」という解説映像コーナーを米デッドライン紙が発信。物語の複雑な背景を視聴者に分かりやすく説明し、一度見ただけでは分かりにくいJ・R・R・トールキンの世界を、主演俳優たちのインタビューを交えて解説している。
当初、原作にはない新シリーズの登場人物に賛否両論。なかには、エルフは白人だったはずという黒人キャストに関する批判が波紋を呼び、クリエイターのJ.D.ペインとパトリック・マッケイは、J・R・R・トールキンという作家のモットーを知っている人ならエルフの人種を説うはずがないと彼らの方針を明らかにしている。映画『ロード・オブ・ザ・リング』を覚えている人なら、いかに前述の映画が白人キャスト主流だったか、そして「力の指輪」の多種多様な人種の配役に驚くかもしれない。
アマゾン・スタジオとクリエイターたちはJ・R・R・トールキンの世界を調べ尽くし、トールキン財団の承諾のもとに、原作「指輪物語」シリーズをベースにして物語を展開させている。それらは、アメリカで社会的な変革となった #metoo や #blacklivesmatter 、その他のマイノリティとされてきた白人のみではない俳優も多く起用していこうという、ハリウッドの画期的な労働環境の変革が反映されているのである。
アマゾン・スタジオの最高経営責任者、ジェニファー・サルケの手腕
2017年に「ロード・オブ・ザ・リング」フランチャイズの権利を2億5千万ドル(約364億3000万円)で契約したアマゾン・スタジオ。5シーズンを目論んだ、シーズン1の制作費はさらに巨額の約4億5千万ドル(約655億8000万円)。
妥協をしないプロダクション・バリューは「一つの街を作るような感覚」だと語っているのがアマゾン・スタジオの新リーダー、ジェニファー・サルケ。今月カンヌでおこなわれる世界最大級のコンテンツマーケットMIPCOMで、「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」制作の手腕などを称えられるサルケは、今月の米ヴァラエティ紙の表紙も飾っている。
アマゾンの創業者兼、取締役執行会長であるジェフ・ベゾスが最も愛したという原作のフランチャイズの成功はスタジオならず、企業を挙げた大プロジェクト。そのプレッシャーを肩に背負って、アマゾン・スタジオの経営トップとなったサルケは、長年、映画スタジオのエグゼクティブを務めただけでなく、NBC、ユニバーサルテレビの再建を担当し、業界からの評価は多大。
「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン1は、映画以上の映像美を誇り、セットの豪華さやデジタル映像にもこだわっている。ニュージーランドで行われた巨額の制作費、大勢のスタッフ管理、さらにはJ・R・R・トールキンの孫がしきるトールキン財団をも納得させる新キャラクターやエピソードの構築はシリーズの輝かしいスタートを約束し、現在、最もホットな存在でハリウッド業界をリードしている。