Apr 03, 2025 column

映画『HERE 時を越えて』ロバート・ゼメキスから映画へのラブレター

A A
SHARE

『フォレスト・ガンプ/一期一会』の姉妹編

監督:ロバート・ゼメキス。脚本:エリック・ロス。主演:トム・ハンクス、ロビン・ライト。音楽:アラン・シルヴェストリ。撮影:ドン・バージェス。衣装:ジョアンナ・ジョンストン。『HERE 時を越えて』の座組は、『フォレスト・ガンプ/ 一期一会』の主要スタッフ・キャストと重なる部分が多い。トム・ハンクス演じる主人公の人生を通して、アメリカ現代史を描くという大まかな構成も一緒だ。ある意味でこの二つの作品は、姉妹編のような関係と言っていいかもしれない。

第67回アカデミー賞で13部門にノミネートし、6部門でオスカーを獲得した『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)は、映画史に残る名作という評価を受けている。だがその一方で、大きな批判にもさらされた。知的障害を持つ主人公を純粋無垢な存在として描き、ベトナム戦争や卓球全米チームでの活躍が認められて、大統領から栄誉勲章を贈られるという筋書きが、まるで国家に対する盲目的忠誠として受け止められてしまったのだ。この作品で最優秀監督賞を受賞したロバート・ゼメキスはインタビューでこう語っている。

「観客は『フォレスト・ガンプ』のような映画を観ても、それが何なのか、何についての皮肉なのかを理解していない。私のような映画作家は、人生や芸術や映画の中に皮肉を見出しているのだけれど、それがいつの間にか失われてしまっている」

time.comより

『HERE 時を越えて』にトム・ハンクス、ロビン・ライトを起用したのは、ロバート・ゼメキスが『フォレスト・ガンプ/一期一会』の雪辱戦と考えたからではないか。だが、そのアプローチは異なる。主人公が能動的に歴史に身を投じる『フォレスト・ガンプ/一期一会』に対して、『HERE 時を越えて』は受動的だ。

ラジオで流れる真珠湾攻撃のニュース。リチャードとマーガレットの結婚式のときテレビに映るビートルズの「All My Loving」。時代の移り変わりは決して前傾化せず、リチャードとマーガレットの物語を慎ましく添えるにとどまっている。歴史を描く手つきが決定的に異なるのだ。

逆に両作の共通点を挙げるならば、祝福と共にラストを迎える語り口だろう。老人となったリチャードは、認知症のマーガレットと共に、かつて2人が住んでいた空き家を訪れる。やがて、娘が幼い頃、ブルーリボンを失くしたことを思い出し、在りし日の記憶がよみがえる。まるで、マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」で、紅茶に浸したマドレーヌの匂いが主人公の記憶を呼び起こしたように。

やがてカメラはどんどんズームアウトして、一軒家から離れて街を見下ろし、一羽のハチドリを捉える。幸運と愛を表す、平和のシンボル。思えば『フォレスト・ガンプ/一期一会』でも、風に舞う鳥の羽が印象的に使われていた。鳥の視点‥‥すなわち天上の視点(神の視点)で、物語は優しく閉じられる。人類の営みを観測し、祝福する映画。ロバート・ゼメキス指折りの実験作『HERE 時を越えて』は、指折りのヒューマンドラマなのである。



文 / 竹島ルイ

作品情報
映画『HERE 時を越えて』

恐竜が駆け抜け、氷河期を迎え、オークの木が育ち、先住民族の男女が出会う。悠久の時を越えてその場所に家が建ち、いくつもの家族が入居しては出てゆく。心を揺さぶるドラマと共に。1945年、戦地から帰還したアルと妻のローズが家を購入し、やがてリチャードが生まれる。世界が急速に変化していく中、絵の得意なリチャードはアーティストになることを夢見ていた。そんな中、別の高校に通うマーガレットと出会い、2人は恋におちる。マーガレットは、高校卒業後は大学に進学し、弁護士になることを目指していた。だが、ここから思いがけない人生が始まる。

監督:ロバート・ゼメキス

出演:トム・ハンクス、ロビン・ライト、ポール・ベタニー、ケリー・ライリー、ミシェル・ドッカリー

配給:キノフィルムズ 

©2024 Miramax Distribution Services, LLC. All Rights Reserved.

2025年4月4日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

公式サイト here-movie