Apr 03, 2025 column

映画『HERE 時を越えて』ロバート・ゼメキスから映画へのラブレター

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ワンシーン・ワンカットの愉悦

固定カメラで映し出されるリチャードたちの生活。カメラを上下に振るティルトや横に振るパン、ズームインやズームアウトといったカメラワークがないため、我々はスクリーンに身を乗り出し、彼ら/彼女らの会話に耳を傾けようとする。他人の生活を覗き見ることで、登場人物への親密感が増す。ヤング一家の喜びや悲しみがリアルに迫ってくるのが、フライ・オン・ザ・ウォールの効用といえる。

当然、別の時代に切り替わるまで、映像はワンシーン・ワンカットで描かれる。そしてロバート・ゼメキスは、これまで数々のマジカルなワンシーン・ワンカット撮影を敢行してきた映画作家だ。例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)は、オープニングからワンシーン・ワンカット。カメラはゆっくり移動しながら、チクタクと音を刻む大量の時計、プルトニウムが盗まれたニュースを伝えるテレビ、愛犬アインシュタインに餌を与える自動マシンを捉え、やがて主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)が登場するまでを描く。

地球外生命体との接触をテーマにしたSF映画『コンタクト』(1997)では、電波信号を受信したエリー博士(ジョディ・フォスター)が、トランシーバーで仲間に指示を与えながら、車を降りて研究室に飛び込むまでを、ワンシーン・ワンカットで描いていた。彼女の興奮が伝わってくるような、見事なショットである。

そしてこの『コンタクト』には、もうひとつ印象深いワンシーン・ワンカットがある。少女時代のエリーが心臓発作で倒れた父親を発見し、階段を駆け上って洗面台の扉から薬を取り出す場面。やがてゆっくり扉が閉まると、父と娘の仲睦まじい写真が映し出される。親子の生活は二度と戻ってこないことを想像させる、独創的なショットだ。

ワンシーン・ワンカット。固定カメラ。『HERE 時を越えて』は、ひょっとしたらロバート・ゼメキスなりの、映画に対するラブレターなのかもしれない。1895年、リュミエール兄弟によってシネマトグラフという革命的な装置が誕生した。同年に公開された世界初の実写商業映画『工場の出口』は、リュミエール社の工場から出ていく従業員たちを、ワンシーン・ワンカット&固定カメラで撮影した作品。映画の歴史は、1分にも満たない1本のドキュメンタリーから始まっている。

本作は、最新のテクノロジーを駆使して、映画黎明期のスピリットを現代によみがえらせた作品なのだ。