Apr 22, 2017 column

『真田丸』の徳川家康から悩める王子に。内野聖陽主演の『ハムレット』公演レビュー

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俳優が複数の役を演じることは、『ハムレット』には必然でもあり、この作品は、“演じる”ことがテーマになっている。ハムレットは狂ったように自分を見せかけて、叔父の犯罪を暴こうとしているわけだが、もともと、ハムレットくんは、お芝居好き人物なのだ(と考えると少し微笑ましく思える)。

「役者は時代の縮図、一人ひとりが短い年代記だ」(セリフは、上演台本が手にはいらないので、松岡和子のちくま文庫『ハムレット』から引用、以下同)という思いをもっているほどのハムレットくん。そこで彼は、大好きな旅芸人の一座に、叔父の国王殺害の犯罪の証拠をつかむために芝居をうってもらう。王様を殺す芝居を旅芸人の一座に上演させて、そのときの叔父の反応をチェックするために。
お芝居が上演されているところを見て動揺する叔父の表情を見ているハムレットとその親友ホレイショー(北村有起哉)のスリリングな視線の交錯は、この舞台のお楽しみのひとつでもある。

さて、ハムレットに忠実なホレイショー。彼はただひとり、役を兼任しない。これが、ジョン・ケアード版の『ハムレット』のミソ。彼は、最初に登場し、登場人物たちを召喚するようなポーズをとる。俳優を集めて、ハムレットに託された「苦しいだろうが、すさんだこの世でいきながらえ 俺のことを語りつたえてくれ」という遺言に従って、これから伝承を演じますよというだけでなく、死者を呼び出しているような感じもする。これがファンタジーの世界みたいにも見えて、ぞくぞくする。
物語の舞台はデンマークだが、シェイクスピア自身は、ハリー・ポッターに代表される”魔法の国”のひとだけある。

 

撮影:引地信彦

撮影:引地信彦

 

舞台装置が、能舞台のようで、中央の舞台(現実世界)と、下手の橋掛かり(あの世とこの世の堺)から俳優が出入りしているところにも、死者が召喚されている感じを覚えるのだ。
能といえば、信長も能に親しんでいたし、秀吉はひじょうに能を好み、家康も秀吉の影響で能好きだったと言われる。シェイクスピアと戦国時代は同時代ならではの親和性がある。

と、いちいち理にかなったジョン・ケアードの演出にねじ伏せられるしかない。

俳優を大事にするハムレットにならってか、俳優がひとりひとり大切にされているのを感じたのは、哀しみに狂ってしまったオフィーリアの貫地谷しほりと、その兄レアティーズ役の加藤和樹が再会する場面で、貫地谷しほりと一緒に、ミュージカルでも活躍している加藤にも歌わせたこと。

不幸な運命に見舞われる兄妹の哀しみが際立ったのは当然ながら、重要な役にもかかわらず、内野聖陽とか北村有起哉とか國村隼などの強烈な俳優たちのキャリアのなかではまだ及ばない加藤が、ともすれば気圧されてしまいがちなところ、いい見せ場ができたし、何かすごく純粋なシーンとして印象に残った。何作も『ハムレット』を観ている身としては、オフィーリアとレアティーズは、ハムレットの苦悩に巻き込まれただけで、ほんとうに可哀想なのだってことも改めて感じさせられたのだ。貫地谷しほりのオフィーリアも、ハムレットが狂ったふりして彼女をなじるところで、ただただショックを受けるだけでなく、ハムレットを抱きしめる動作が、彼女の愛の深さを感じて、いままで見たオフィーリアと違うものを感じた。

どうしても、父を殺され、母を寝取られ、恋人を狂い死にに追いやってしまう主人公の苦悩に肩入れして観てしまいがちな『ハムレット』を、冷静に、客観的に観ることができて新鮮だ。

文 / 木俣冬

 

舞台『ハムレット』

作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
上演台本:ジョン・ケアード 今井麻緒子
演出:ジョン・ケアード
音楽、演奏:藤原道山

出演:内野聖陽、貫地谷しほり、北村有起哉、加藤和樹、山口馬木也、今 拓哉、壤 晴彦、︎村井國夫、浅野ゆう子、︎國村 隼

【東京公演】
東京芸術劇場 プレイハウス
4月28日(金)まで。
当日券は各公演、開演1時間前よりプレイハウス当日券売場にて販売いたします。
お問い合わせ:0570-010-296 (休館日を除く10時~19時)
http://www.geigeki.jp

【兵庫公演】
公演日:2017年5月3日(水・祝)13時【プレビュー公演】/19:00
4日(木・祝)13:00 5日(金・祝)13:00
6日(土)13:00/19:00 7日(日)13:00
※開場は開演の30分前
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
主催:関西テレビ放送/兵庫県/兵庫県立芸術文化センター
発売日:2017年1月14日(土)
お問合せ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255
http://www1.gcenter-hyogo.jp/

【高知公演】
公演日:2017年5月10日(水)18:30開演※開場は開演の30分前
会場:高知市文化プラザかるぽーと大ホール
主催:高知市文化振興事業団
発売日:2017年2月18日(土)予定
お問合せ:高知市文化振興事業団 088-883-5071
http://www.bunkaplaza.or.jp/jishu/17/hamlet/index.html

【北九州公演】
公演日:2017年5月13日(土)18:00 開演
5月14日(日)13:00 開演 ※開場は開演の30分前
会場:北九州芸術劇場 大ホール
主催:(公財)北九州市芸術文化振興財団 共催:北九州市
発売日:2017 年3 月5日(日)10:00~
お問合せ:北九州芸術劇場 093-562-2655
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp

【松本公演】
公演日:2017年5月17日(水)14:00開演※開場は開演の30分前
会場:まつもと市民芸術館主ホール
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団後援:松本市、松本市教育委員会
発売日::2017年2月11日(土)10:00~
お問合せ:まつもと市民芸術館チケットセンター(10:00~18:00)
[電話] 0263-33-2200 [窓口] まつもと市民芸術館1階
[PC] 芸術館チケットクラブ(24時間受付・要事前会員登録)
http://www.mpac.jp/event/drama/19203.html

【上田公演】
公演日:2017年5月21日(日)開演13:00(※開場12:15)
会場:上田市交流文化芸術センター 大ホール
主催:主催:上田市(上田市交流文化芸術センター)、上田市教育委員会
発売日:2017年2月11日(土)
お問合せ:交流文化芸術センター(9:00~17:00)TEL.0268-27-2000
https://www.santomyuze.com/hallevent/hamlet2017/

公式サイト https://www.hamlet-stage.com/

舞台写真撮影:引地信彦

 

文・木俣冬

 

文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
現在、初めての新書を書き下ろし中。

otoCotoでの執筆記事の一覧はこちら:https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/