Apr 28, 2024 column

生贄王女が闘う! ファンタジーのテンプレを覆す『ダムゼル/運命を拓きし者』

A A
SHARE

天気に恵まれた2024年GWいかがお過ごしでしょうか。ご旅行におでかけされる方はちょっとしたすき間時間に映画を、お家でゆっくりお過ごしの方はドラマシリーズを、この機会にNetflixで一気見してみませんか?

「世界には勇敢な騎士がか弱き乙女を救う物語がたくさんある。しかし、これはそのひとつではない」。

こんな言葉で始まる映画『ダムゼル/運命を拓きし者』は、物語の設定から展開、ジャンルまでヒネりの利いたファンタジーだ。主演・製作は「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016~)でおなじみのミリー・ボビー・ブラウン。配信開始後、なんと79 カ国でNo.1を獲得した話題作である。

ブラウン演じる主人公のエロディは、食糧と資源が不足する貧しい北の大地を治める一家の長女。ある日、裕福なアウレア王国の女王イザベルの申し出により、女王の息子・ヘンリー王子と結婚することになった。結婚と引き換えに、故郷の国には大金が支払われるのだ。「自分の結婚で民が救われるなら」とエロディは快諾したが、王国には秘密があった。結婚の儀式の途中、エロディは凶暴なドラゴンの生贄として捧げられてしまう‥‥。

タイトルの『ダムゼル(damsel)』は、物語のジャンルのひとつである「囚われの姫(damsel in distress)」をもじったもの。映画冒頭のフレーズからも明らかなように、本作は“よくあるファンタジー”の構造をあえて転覆させている。王女となるはずだったエロディが活発でパワフルなのに対し、ヘンリー王子の夢はまるで囚われの姫のように「いつか王国の外を見ること」。おとぎ話ではイジワルなのがお約束の継母も、本作では結婚の不穏をいち早く見破るのだ。

もっとも、このような仕掛けがわかってしまえば、作品の現代的メッセージを予想することはたやすい。実際にその意味では、物語がきわめてストレートなところに着地することも事実だ。しかし本作の見どころは、その結末に到達するまでのプロセスにある。

エロディが洞穴に投げ込まれてからの展開は、複雑に入り組んだ地下洞窟から彼女が命がけの脱出を試みるサバイバル・スリラー。とある理由ゆえに怒り狂うドラゴンは、エロディに「お前の家族が償わねばならない、血を恨むがいい」とささやき、炎を噴いて襲いかかる。エロディは血を流し、泥まみれになりながら立ち上がって戦うほかないのだ。

ブラウンがすべてのスタントを自ら演じたアクションシーンは、身体を張りまくっただけあって見ごたえ十分。中盤はCGのドラゴンを相手にした“ほぼ一人芝居”にもかかわらず、観る者を終始惹きつける演技はさすがの貫禄だ。ちなみに、監督のフアン・カルロス・フレナディージョはホラー出身。やけに力の入った死体表現や破壊描写も見どころと言える。

共演には、継母役に『ブラックパンサー』シリーズのアンジェラ・バセット、イザベル女王役に『ワンダーウーマン』シリーズのロビン・ライト。人気スーパーヒーロー映画で女性ヒーローを導く役目を担った2人が、これまたちょっぴりヒネった役どころを演じているのもおもしろい。本編尺は約100分とタイトなので、ぜひ気軽に観てみては。



文 / 稲垣貴俊

作品情報
『ダムゼル/運命を拓きし者』

ハンサムな王子と結婚することになった従順な王女。ところがその結婚は、王族が古代の契りを守るためのいけにえとして、彼女を利用するためのものでした。火を噴くドラゴンのいる洞窟に投げ込まれてしまった王女は、知恵を振り絞らなくてはなりません。自分の力で生き残るために。

監督:フアン・カルロス・フレスナディージョ

出演:ミリー・ボビー・ブラウン、ロビン・ライト、アンジェラ・バセット、ニック・ロビンソン、レイ・ウィンストン

Netflix映画『ダムゼル/運命を拓きし者』独占配信中

公式サイト netflix.com/jp/title/80991090