今年のゴールデンウィークは最大9連休と長めのお休み。otocotoでは4月29日から5月6日まで、選りすぐりの人気作・話題作を毎日紹介します。明日のことを考えず、夜更かしが許されるこの機会に話題となっている配信オリジナルの映画、ドラマシリーズを一気見してはいかが?
物語の視点がエピソードごとに変化
合法的な無料音楽ストリーミングサービス「Spotify」を世界に向けて提供し、業界全体に革命を起こしたスウェーデンの若きIT起業家ダニエル・エクと、彼の協力パートナーたちの軌跡を描いたドラマ「ザ・プレイリスト」。
2020年に発行され話題を呼んだノンフィクション「Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生」(ダイヤモンド社)を原作とし、2022年10月13日にNetflixで独占配信が開始されたドラマシリーズだ。
スタートアップ企業が、旧態依然とした現状を打破しようとするとき、障害にぶちあたりながらも、解決策を見つけ成功の道を辿る。『ソーシャル・ネットワーク』(2011)、『スティーブ・ジョブズ』(2015)あたりが好きな人は、見てまず損はない。
そもそもこのドラマをより楽しむために、ドットコム・バブル以降、2000年代のインターネット事情を知っておく必要がある。
当時「ナップスター」「パイレーツ・ベイ」などP2Pを利用した海賊版、音楽データの違法ダウンロードによって音楽業界のセールスが激減していた。なかでも「パイレーツ・ベイ」が設立された本ドラマリーズの舞台、スウェーデンでは子供から大人まで利用者が広がっていた。このあたりの時代背景と問題点は2023年3月10日に公開された映画『Winny』に詳しい。
「パイレーツ・ベイ」は反著作権団体によって作られ音楽ファイルをダウンロードすることを可能にした。Spotifyは音楽に対してリスペクトはあるが、無料でシェアすべきという考えのもと、誰もがアクセスしやすい即時性に重きを置きストリーミング・サービスを立ち上げようとする。
このような旧態依然としたした大企業に切り込む物語は、IT分野の知識に疎い人でも胸が空く想いがするだろう。これは他のスタートアップ企業をテーマとした映画・ドラマでも同じこと。「ザ・プレイリスト」が面白い!と言われているのはストーリー構成にある。
先に挙げた『ソーシャル・ネットワーク』などは、創業者を中心に描かれているが、本ドラマシリーズでは、全6話によるエピソードを、Spotifyの創業者のダニエル、共同創業者のマーティン、弁護士のペトラ、プログラマーのアンドレアス、そして著作権をめぐり対立するソニー・スウェーデンのCEO、音楽業界に夢を見るアーティストと6人の視点で物語が進行する。
「実際こうではなかった」と別視点で物語を語ることで、決して一筋縄ではいかないビジネスの諸問題が浮き彫りになる。そして別の解釈が加わることで数話前のエピソードも楽しめ、話が進むごとにシリーズ全体の深みを増していく。
ノンフィクション原作を膨らませ、魅力的なフィクションとして昇華している「ザ・プレイリスト」。物語の視点の変化もそうだが、なかでも素晴らしいのは、創業から今に至るまででなく、音楽業界の近い未来を描いる点だ。「音楽は無料にして、世界中でシェアするべき」という理想の果てに、なにが待ち受けているのか。これは当たり前にサブスクを利用している人が増えた現在だからこそ考えるべきテーマだろう。
ありがちではないスタートアップストーリー、誰に肩入れするかは、あなた次第。ビジネスにはドラマがある。
合法的なストリーミングプラットフォームで音楽業界に革命を起こすべく動き出したスウェーデンのIT企業家と、そのパートナーたちの軌跡を描いたフィクションドラマ。
監督:ペール=オラフ・ソレンセン
出演:エドヴィン・エンドレ、ウルフ・ステンバリ、ヨエル・リュッツォウ、ギゼム・エルドアン、クリスティアン・ヒルボリィ
Netflixにて全世界独占配信中