Mar 02, 2019 column

オスカーの“投票システム”も大きく影響?『グリーンブック』作品賞受賞の理由、多彩な魅力を解説

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セクハラ騒動から一転、オスカー作品賞に輝いた理由とは?

 

『グリーンブック』が、アカデミー賞で作品賞に輝いたことは、ややサプライズでもあった。ここ数年の作品賞受賞作に比べると、明らかにエンタテインメント色が強く、口当たりのいい作品だからだ。もちろんトロント国際映画祭での観客賞や、PGA(全米製作者組合賞)の最高賞など、重要な前哨戦を勝っているので、十分にその可能性はあった。しかし、最終投票を前にして、監督のピーター・ファレリーの過去のセクハラ(『メリーに首ったけ』のオーディションでキャメロン・ディアスの前で下半身をモロ出ししたとか)が取り沙汰されるなど、マイナス要因も報道されたりして、アカデミー会員の心理も動かすと言われていた。『グリーンブック』は監督賞にノミネートされていないのも不利な状況で、作品賞本命は『ROMA/ローマ』という記事も多くなっていったのである。

 

 

しかし、作品賞は意外に“逆転”が多い部門でもある。封筒の受け渡しミスがあった一昨年も、『ラ・ラ・ランド』(16年)で決まりと言われながら、『ムーンライト』が勝ち取った。これは投票システムも大きく影響しており、アカデミー会員は他部門では候補者から一人を選ぶのに対し、作品賞は順位をつけて投票する。1位の獲得数が少ない作品が次々と削られ、集計が繰り返されるので、全体的に上位にランクされた作品が優位になる傾向があるのだ。今年の場合、おそらく僅差だっただろうが、映画業界内でのNetflixへの反発も多少は残っていたと思われ、『ROMA/ローマ』の完勝を阻止した可能性もある。

 

 

とはいえ『グリーンブック』も“人種の壁を越える”という、近年、オスカーで重要視されるテーマが前面に出ているし、作品を観ると別の“多様性”も言及されており、十分に作品賞に値する。しかも堅苦しくなりそうなテーマを、ここまで軽やかに、多くの人に愛される作品に仕上げたことは評価されるべき……と考えた人も多かったはずだ。今年は他にも『ボヘミアン・ラプソディ』や『ブラックパンサー』など一般観客に愛された作品が、アカデミー賞を賑わせた。そうした“流れ”も『グリーンブック』を後押ししたに違いない。

『グリーンブック』はアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚本賞を受賞したが、ピーター・ファレリーが関わった脚本賞は、セクハラ騒動で無理かも、と予想されていた。しかし受賞を果たしたのは、メイン2人が心を通わせるセリフや設定はもちろん、2回同じ状況を描くことで感動を盛り上げる何気ない巧妙さがあったりと、脚本が正当に評価されたからだろう。ファレリーとともに脚本に関わったニック・バレロンガは、トニー・リップの実の息子であり、トニーの家族として本物の親戚たちが俳優として映画に登場している。要所に宿った“アットホームな温かさ”も『グリーンブック』の魅力なのである。

文/斉藤博昭

 

作品紹介

 

『グリーンブック』

1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブで用心棒を務めるトニー・リップはガサツで無学だが、腕っぷしはもちろんハッタリも得意で、家族や周囲から頼りにされていた。クラブが改装のために閉店となった2カ月間、トニーは黒人ピアニストにコンサートツアーの運転手として雇われる。彼の名前はドクター・ドナルド・シャーリー。巨匠ストラヴィンスキーから「神の域の技巧」と絶賛され、ケネディ大統領のためにホワイトハウスでも演奏するほどの天才なのだが、なぜか黒人差別が色濃く危険な南部を目指していた。黒人用旅行ガイド“グリーンブック”を頼りに二人はツアーへと出発する。

監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
配給:ギャガ
公開中
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公式サイト:gaga.ne.jp/greenbook