別の年ならW受賞もあった?キャスト2人の名演&魅力
もちろんこの“魔法”の最大の使い手は、メインキャストの2人だ。本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリは、天才ピアニストとしての演奏シーンも見事だが、ちょっぴり上から目線で威厳のあるドクターを気取って演じる姿がハマりまくる。時折見せる孤独感や、トニーに対する感情の変化、さらに酔いつぶれたときの変貌ぶりなど、とにかく多彩な演技で観る者の心を掴んでしまう。
トニー役のヴィゴ・モーテンセンは、なんと体重を20kgも増量。体型でトニーの“だらしなさ”を表現しただけでなく、したたかで豪快、血が上りやすいが肝心なときはシビアなど、役の多面性を軽やかに名演する。今年は『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックや『バイス』のクリスチャン・ベールなど強力なライバルがいたが、もし別の年だったら、ヴィゴはノミネート止まりではなく、主演男優賞受賞も大いに可能性があったと感じる。それくらいヴィゴ本人の魅力に、役の人間くささがマッチして、感情移入させるのである。
トニーとドクター、それぞれの気持ちを共有し、迎えるラストシーンでは、おそらく誰もが幸せな気分に浸ることだろう。そして、その幸せを語り合いたくなる。しかも“あざとい”感動ではなく、“粋”な感動がもたらされるのも、この映画の魔法だ。