日本の小説では、山本弘の『MM9』もぜひ映像化してほしい作品。
主人公は気象庁の職員たち。彼らが住む世界では怪獣が実在し、自然災害として扱われている。気象庁の怪獣対策のスペシャリストたちは怪獣の早期発見と分析によって怪獣災害を防ごうと日夜努力している。彼ら“特異生物対策部”略して“気特対”の奮闘を描く怪獣SFだ。
本作は2010年にテレビドラマ化もされている。しかし、忠実な映像化が難しいこともあり(原作では全裸で怪獣と戦う巨大な少女もメインキャラとして登場するのだ)、ほとんど別ものと言っていいぐらい、大幅なアレンジが加えられていた。
ドラマ版の総監督には『シン・ゴジラ』の樋口真嗣、出演は尾野真千子、高橋一生、松尾諭、皆川猿時、松重豊らと実力派がそろっていた。『機動警察パトレイバー』的なテイストが感じられるところなども含めて(脚本は『パトレイバー』の伊藤和典が担当している)、個人的にはドラマ版はドラマ版で楽しく見られた。
が、やはり、原作の魅力を活かした映像化作品も見てみたい。
実は、作者の山本のツイッターによると、『この世界の片隅に』の片渕須直が監督をつとめて『MM9』をアニメ化する企画も動いていたという。残念ながらこの企画は実現していないが、山本によると片渕は徹底的に原作を読み込んで、絶妙なアレンジを加えた第1話のシナリオも準備していたという。『この世界の片隅に』の成功により、片渕の企画も通りやすくなっていると思われるので、いつかはアニメ版『MM9』を実現してほしい!
コミックでは、2010年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選ばれ、2016年に日本SF大賞を獲得した白井弓子の『WOMBS(ウームズ)』の映像化を希望したい。
『WOMBS』は、妊婦のような姿の女性が兵士になるというビジュアルとストーリーで多くの人に衝撃を与えた。物語の舞台は人類が移住した、はるか遠くの星“碧王星”。主人公のマナ・オーガが住む国家“ハスト”は、後からやってきた次の世代の入植者たち“セカンド”と激しく争っている。力で劣るハストの切り札は、“転送兵”だった。碧王星の生物“ニーバス”を子宮に入れて、妊婦のような姿になった女性の転送兵たちは瞬間移動の力を手に入れる。彼女らの活躍でハストは苦しい戦いをしのいでいた。招集されて転送隊に配属されたマナには、過酷な軍隊生活が待ち受けていた…。ハリウッドでの実写化も狙えそうな骨太クオリティで、徐々に謎が明らかになっていく点などは、海外ドラマにも向いていそうだ。
日本の漫画やアニメなどにハリウッドが目を向けているのはよく知られた話で、前述のとおり『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』がハリウッドで映画化されたほか、川原礫のライトノベル『ソード・アートオンライン』もハリウッドでテレビドラマ化されることが発表されている。
それらに続くのは、ご紹介した小説&コミックかもしれないのだ!
文/武富元太郎
『ゴースト・イン・ザ・シェル』
『ゴースト・イン・ザ・シェル』
監督:ルパート・サンダース
出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、マイケル・ピット、ピルー・アスベック、チン・ハン、ジュリエット・ビノシュ
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:http://ghostshell.jp/
2017年4月7日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国劇場にて公開
(C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
『攻殻機動隊』士郎正宗/講談社
西暦2029年、超高度情報社会の複雑化した犯罪に対抗すべく結成された公安9課の活躍を描く。アニメ版とは違ったコミカルな要素も楽しい。作者はSFファン、漫画ファンから熱狂的に支持される士郎正宗。士郎の作品は濃密な情報量でも有名で、本作も欄外に解説の書き込みがあるが、電子版ではその注釈が読みやすくまとめられている。
『虐殺器官』伊藤計劃/早川書房
911テロ後の世界。先進国は徹底的な管理体制でテロを一掃したが、後進国では大規模な虐殺が増加。米軍大尉クラヴィス・シェパードは虐殺の鍵を握るジョン・ポールという謎の男を追い、事件の陰に虐殺を引き起こす“虐殺の文法”が存在することを知る……。夭逝した小説家・伊藤計劃の代表作。
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ピーター・トライアス/早川書房
第二次世界大戦で枢軸国側が勝利し、アメリカは日本に支配されていた。帝国陸軍の石村大尉は特別高等警察の槻野の訪問を受ける。石村のかつての上官がアメリカ人の抵抗組織に協力しているという……。映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも参加した新鋭が放つディストピアSF小説。
『MM9』山本弘/東京創元社
地震や台風と同じように自然災害として怪獣が存在する世界。怪獣が多数出現する日本では、気象庁の“特異生物対策部”が怪獣災害の被害に立ち向かうため日夜奔走していた……。さまざまな特撮作品へのオマージュにもニヤリとさせられる怪獣SF小説。
『WOMBS』白井弓子/小学館
漂流の末、人類がたどり着いた碧王星。そこでは、土地を切り開いてきた第一次移民(ファースト)と、後からやってきた第二次移民(セカンド)との間で激しい戦いが繰り広げられていた。ファーストのマナ・オーガは徴兵され、転送兵となる。転送兵は碧王星の生物ニーバスを身に宿すことで、瞬間移動能力を得るのだが……。第34回日本SF大賞を受賞したSF漫画。